2010年7月28日水曜日

「子どもの便秘」

ゲスト/医療法人社団 いし胃腸科内科 松原 央 副院長

子どもの便秘について教えてください。
 便秘とは通常、週2回以下の排便回数のことを指します。しかし、便の回数が少なくても、特におなかを痛がる様子もなく、食欲もあって機嫌が良ければ、あまり心配する必要はありません。反対に、排便回数が週2回以上でも、お腹が張っていたり、便を出すのがつらそうで嫌がったりしているようなら便秘の可能性があります。
 子どもの便秘の原因には、年齢的な特徴がみられます。新生児期より生じる便秘には、肛門(こうもん)の位置や神経に異常があるなど、先天的な病気が原因となっている可能性があります。この時期に自発的排便がみられない場合には、専門医に相談してください。乳児期の便秘では離乳食が原因となることが多くなります。便秘傾向が続く時には、食事内容が適切かどうか検討してみる必要があります。水分をたっぷり与えるように心掛け、食事は食物繊維を多くして便が固くならないように工夫しましょう。野菜類(特に根菜)、豆類、キノコ類、海草類などが勧められます。トイレトレーニング開始時期も便秘になる子どもが多くなります。排便の失敗をしかられて、トイレでするよりも排便を我慢することを繰り返し、便秘になるケースが見られます。幼稚園に入園する時期から小学生にかけて、集団生活の中で「大便することが恥ずかしい」という風潮にさらされることも、便秘の原因の一つです。

日常生活で気を付けるポイントを教えてください。
 水分や食物繊維を十分に取るように毎日の食事に気を付けることは重要ですが、まずは便をため込まないように習慣付けることが何よりも大切です。毎日決まった時間に排便する習慣を付けること、便意を感じたら我慢せずにトイレに行くことを大事にしてください。便が固いと排便の際、肛門が切れて、少し血が出たりします。一度切れてしまうと、便を出そうとするたびに痛い思いをするので、子どもは余計排便することを嫌がるようになります。そうなってしまうと、どんどん便秘が悪化していくという悪循環が起きてしまいます。
 家庭でのケアでは解決できない便秘や、嘔吐(おうと)したり、強い腹痛がある場合、また肛門が切れての出血が続く場合は、専門医の診察を受けてください。状況に応じて、便通を整える内服薬や子ども用の浣(かん)腸を処方してもらいましょう。

2010年7月21日水曜日

「外科矯正」

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 院長

外科手術による矯正治療について教えてください。
 反対咬(こう)合、上顎(がく)前突、上下の歯が噛(か)み合っていない開咬など顎変形症の症状がひどく、矯正治療のみでは治しきれない場合、外科手術によって治療する方法があります。下顎全体を後に下げる、上顎全体を前に出すなど、いろいろな手術がありますが、どのような手術が必要かは、患者さんの症状に合わせて選択します。顎を手術しただけではきれいに噛み合いませんので、手術前後に矯正治療を行います。矯正歯科医と口腔外科が協力し、手術前の治療に約1年、手術後に約1年、固定に約1年、合わせて3年ほどの治療期間が必要です。
 外科矯正では、顎の骨に手術を行うので、手術時には顎の成長が終了している必要があります。手術後に大きな成長があると、後から咬み合わせがずれてしまう場合があるからです。高校生以降が開始時期の目安となりますが、顎変形症のタイプや程度によって治療に最適な時期や内容が異なりますので、年齢にかかわらず、まずは専門医の診察を受けてください。

入院期間や費用などが心配ですが
 手術は口の中から行うので、傷あとが顔に残ることはありません。入院期間はだいたい2週間程度です。かつて、このような治療は高度先進医療機関に指定されている大学病院などでのみ許可されていました。しかし、現在は都道府県指定の更生医療機関などの矯正歯科医なら、口腔外科と協力して行えるようになりました。一般の矯正治療は保険診療の対象外ですが、外科治療を伴う場合はすべて保険診療対象となります。著しく噛み合わせがずれているまま放っておくと、発音や咀嚼(そしゃく)、顎関節症など機能面や健康面で問題が生じます。また、外見的にも悩まれる人が多いのも実状です。
 外科矯正は機能性の向上を求めて根本的に治療するので、噛み合わせ改善することで、自然と外見的な変化に繋がると考えられます。
 外科治療せずに顎の変形を治したい場合は、永久歯が生えてくる小学校1、2年生のうちに、矯正治療を始めることをお勧めします。ただし、状態によっては成長後の外科手術が必要になることもあります。

2010年7月14日水曜日

「ピロリ菌と胃の病気」

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内 雅夫 院長

ピロリ菌について教えてください。
 ピロリ菌は1983年にオーストラリアのワレンおよびマーシャル博士によって初めて分離、培養されました。正式名称はヘリコバクター・ピロリ菌という胃粘膜に生息するらせん形の細菌で、胃、十二指腸潰瘍(かいよう)、胃炎、胃がんの原因となっていることが分かっています。胃には胃酸があるため通常の菌は生息できませんが、ピロリ菌はアンモニアを産生し、胃酸を中和して胃の中でも生存することができます。
 日本では若い人の感染率は低いのですが、40歳以上では約80%もの人が感染しています。ピロリ菌感染を予防する方法は、はっきりと分かっていませんが衛生環境が整った現代ではピロリ菌の感染率は著しく低下していますので、あまり神経質になる必要はないでしょう。
 ピロリ菌に感染すると、まず胃粘膜に炎症が起こり、この状態が長期間持続すると胃粘膜の萎縮(いしゅく)が進行します。この萎縮性胃炎は前がん状態と考えられています。ピロリ菌感染者の一部に胃、十二指腸潰瘍が発症しますが、胃潰瘍患者の80%、十二指腸潰瘍患者の95%がピロリ菌陽性です。

ピロリ菌の除菌について教えてください。
 胃・十二指腸潰瘍の主要な原因がピロリ菌であることが分かり、また再発や治りにくさにもピロリ菌が関係していることが分かってから治療法が大きく変わりました。ピロリ菌を除菌するために2種類の抗生剤と胃酸分泌を強力に抑制するプロトンポンプ・インヒビターを併用する方法で、治療期間は一週間です。治療後、4週間以上経過してから、ピロリ菌が除菌できたかどうか、もう一度検査します。この治療法によって、大部分の胃・十二指腸潰瘍の再発を防ぐことができます。もっとも、胃、十二指腸潰瘍の中にはピロリ菌が関与していないもの(鎮痛剤による潰瘍、お酒やタバコ、ストレスによる潰瘍など)もあり、この場合は除菌療法の対象外です。
 ピロリ菌感染の有無は、内視鏡検査で胃粘膜を採取して調べる方法のほか、尿素呼気試験、血清抗体測定、便中の抗原測定などがあります。なお近年、萎縮性胃炎に対しても胃がん予防の見地から除菌療法をしたほうが良いという意見が強くなってきています。

2010年7月7日水曜日

「関節リウマチの新しい診断基準」

ゲスト/佐川昭リウマチクリニック 佐川 昭 院長

関節リウマチの診断について教えてください。
 リウマチクリニックを初めて訪れる患者さんは、関節のこわばり、痛み、腫れなどの自覚症状があり、不安に思っている人がほとんどです。医師としては、初期のリウマチを見逃さないように慎重に診断する必要があります。初期リウマチの発見は難しいものです。まず、患者さんの話をよく聞いて、リウマチを疑う症状を見つけます。本人持参の資料、メモ、検診表を見て、丁寧に診察します。診察では特に「腫れ」に注目します。握力も大事な所見です。診断基準表に記入し、診断の目安をつけます。腫れの具合が分かるような写真撮影や、その時点で異常がなくても後に比較が可能なレントゲン撮影も欠かせません。関節エコー、MRI(磁気共鳴画像装置)などの画像診断も可能な限り積極的に行います。血清検査はとても有効です。基準値以下でも症状が持続する場合には注意深く観察します。
 
関節リウマチの新しい診断基準が提唱されたと聞きましたが、その内容について教えてください。
 最近、アメリカとヨーロッパのリウマチ学会で、今までに代わる新しいリウマチの診断基準が提唱されました。私たち日本の学会でも日本の患者さんに当てはめ、それがどのように有用か、問題はないかなどを確かめ始めているところです。今回の改正のポイントは今までの診断基準ではかなり症状や所見がそろわないと確定診断ができなかったところを、少しでも多くの早期の患者さんを発見することができるよう改正したことです。その理由は、リウマチを早期に発見し診断すれば、早期に治療に入ることができるからです。また、現在はかなり有力な治療法(特に生物的製剤)が出てきて、それらを早期に使用すれば関節を破壊しなくても済む可能性が出てきているからなのです。
 今回提唱された内容は、①関節病変②血清学的因子③滑膜炎持続期間④炎症マーカーの4項目から成り立ち、各項目の総合点でリウマチと考えるかを決めることになっています。しかし大切なのは、この基準に当てはめる前にリウマチに似た他の疾患を除外しておくことです。これは時によって難しいケースも多く、リウマチの専門医にとってはその点をしっかり診て、判断していくことが今後の重要な使命の一つになるといえるでしょう。

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