2006年4月26日水曜日

「妊娠中の体重管理」について

ゲスト/札幌東豊病院 菅原正樹 医師

妊娠中の体重管理について教えてください。

 妊娠中の体重管理は、より安全な出産のために重要です。妊娠中にどの程度の体重増加が適正かは、妊娠前の体重によって異なります。
 妊娠前のBMI(ボディー・マス・インデックスの略。「体重(kg)÷身長(m)の2乗」で算出される体格指数値)で、18.5以下の人は9~12kg、25以上の人が5~6kg、その間の人は7~12kg程度の体重増加が許容範囲です。それ以上の体重増加は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や妊娠糖尿病などのリスクを高め、産道に脂肪がついて難産や帝王切開の確率も高くなります。また、分娩(ぶんべん)時の出血量が増加することも多いです。
 逆に、最近のダイエット志向を反映して、妊娠中の体重増加が極端に少ない妊婦さんも増えてきました。妊娠中に必要な栄養をとらないと、妊娠週数に比例して体重の少ない赤ちゃんが生まれる確率が高くなります。体重の増加に気を付けると同時に、極端な食事制限は慎むべきです。

体重管理も含め、妊娠中はどのような点に気を付ければよいでしょうか。

 基本的には規則正しい生活を心掛けることが大切です。妊娠中だけではなく、出産後は赤ちゃんと生活することになりますから、三度の食事時間や就寝時間などが今まで不規則だった人は、子どもにとってより良い環境を作るためにも、生活習慣を見直す必要があるでしょう。
 お腹が大きくなると、動くのが億劫(おっくう)になりますが、特に安静の必要がない場合は積極的に動きましょう。水泳やマタニティービクスなどが流行していますが、特別なことをしなくても散歩やなるべく歩いて移動するなど、日常生活の中で動くように心掛けるといいでしょう。妊娠期間は9カ月の長丁場です。「こうしなくてはいけない」「これをしてはいけいない」と考えるより、無理せずできることから始めましょう。
 体重や栄養の管理については、不安があれば、かかりつけの産院の医師や栄養士に相談し、個々人の状況に応じたアドバイスを受けることをお勧めします。

2006年4月19日水曜日

「慢性の乾性咳嗽(がいそう)」について

ゲスト/大道内科呼吸器科クリニック 大道光秀医師

長引く咳(せき)について教えてください。

 咳が8週間以上続く場合を慢性咳嗽といい、原因として、気管支喘息(ぜんそく)、咳喘息、アトピー咳嗽、マイコプラズマ感染、クラミジア感染などが考えられます。
 咳には、大きく分けて、痰(たん)を伴う湿った咳の「湿性咳嗽」と、乾いた咳の「乾性咳嗽」の2種類があります。原因疾患は、湿性咳嗽では副鼻腔(びくう)気管支症候群、慢性気管支炎、気管支拡張症など、乾性咳嗽の代表的なものが、気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽などです。最近は、乾性咳嗽によって受診する人が増えています。

乾性咳嗽について教えてください。

 ゼイゼイ、ヒューヒューなどの喘鳴(ぜんめい)および呼吸困難を伴い、肺機能で明らかに異常がみられる場合は気管支喘息の診断が容易にできます。しかし咳喘息やアトピー咳嗽は肺機能も正常です。
 咳喘息は、喘鳴を伴わない咳です。多くの場合、風邪をひいた後、咳だけがいつまでも続くといった状態で発症します。夜間や明け方に咳き込むことが多く、患者さんにとっては体力的にもつらい病気です。急に冷たい外気にあたったり、タバコの煙などによっても咳が誘発されます。咳喘息は、気管支喘息と同様に、気管・気管支が収縮するときに咳が出る病気ですから、気管支拡張剤で咳が改善します。咳が続くというだけで、特有の所見がないため、なかなか診断が絞りきれませんが、気管支拡張剤が有効であればアトピー咳嗽、心因性咳嗽などと見分けることができます。気管支喘息に移行することもあるので、適切な治療を受けましょう。
 アトピー咳嗽もゼイゼイなどの呼吸困難を伴わず、ハウスダストや花粉などアレルゲンを吸入することによって、アレルギー性の咳が続きます。気管支拡張剤が効かず、坑アレルギー剤がやや有効です。アレルゲンを突き止め、好発する季節には、抗アレルギー剤を内服し、それでも効果不十分な場合は吸入ステロイド剤を吸入します。
 咳喘息、アトピー咳嗽以外の乾性咳嗽では、ほかに、逆流性食道炎に伴う咳と心因性咳嗽があります。それぞれ、逆流性食道炎の薬、精神安定剤が有効です。夜間眠れないなど日常生活に支障をきたしたら、我慢せずに呼吸器の専門医を受診することをお勧めします。

2006年4月12日水曜日

「新生活によって起こるストレス性疾患」について

ゲスト/円山リラクリニック 森田裕子 医師

春になると新生活によるストレス性疾患が増えると聞きますが。

 春は変化の季節です。若者は、進入学、就職などで、生活環境ががらりと変わります。サラリーマンも、転勤、配置転換などで職場や住居が変化する人も多いでしょう。また、主婦にとっても配偶者の転勤に伴う引っ越しや単身赴任、進学、就職による子どもたちの独立など、生活の変化が起こりやすい時期です。
新しい環境での生活は、肉体的にも精神的にも緊張を強いられます。当初は緊張が続き、また新しい環境に慣れることが精いっぱいの状態で毎日を過ごします。体調の変化は、このような状態が1カ月程度続き、5月の連休が終わったころに現われます。症状はさまざまですが、多いのは胃腸障害、睡眠障害、無気力感、だるさなどです。肩こりや腰痛、頭痛が現れる人もいます。これらは、いわゆる「五月病」と呼ばれるもので、環境の変化がストレスとなって、心や体の重荷になっている状態です。放っておくと、胃潰瘍(かいよう)になったり、出社や登校ができなくなって引きこもってしまったり、うつ状態まで進行してしまうこともあります。

具体的な治療法と、注意点について教えてください。

 胃腸障害や睡眠障害にはその対処薬、体の痛みについては神経ブロックやハリ治療などの麻酔科的治療、うつ状態であれば抗うつ剤と、症状によって必要な治療を行い改善を試みます。あらゆる疾患と同様に、適切な治療が早ければ早いほど短時間で回復します。
 環境の変化にストレスやプレッシャーを感じるのは、当然のことです。趣味や気分転換の方法を見つけて、上手にリラックスし、ストレスを解消するようにしましょう。連休や週末を不規則に過ごすと、なかなか元通りの生活に戻れなくなります。食事や睡眠などの生活リズムを崩さないよう、休み中も規則正しく過ごすよう心掛けてください。
 ストレス性疾患は、誰もがなる可能性があります。周囲の人も「怠けている」などと、しかったり、焦らせたりせず、心身の疲れを理解し、ゆったりと過ごせる環境を作ってあげてください。

2006年4月5日水曜日

「更年期障害の薬物療法」について

ゲスト/はしもとクリニック 橋本 昌樹 医師

更年期障害の薬物療法について教えてください。

 主にホルモン補充療法と漢方療法があります。ホルモン補充療法(HRT)は、飲み薬と張り薬を中心に、エストロゲンというホルモンを補っていく治療法です。
 ほてり、のぼせ、動悸(どうき)、冷え、不眠、耳鳴り、肩こり、イライラといった症状が現れたら、まず、婦人科の専門医を受診しましょう。更年期障害であれば、診察と問診でおおよその見当がつきます。治療を始めると、早ければ1、2週間から1カ月ほどで、症状が劇的に改善されることも少なくありません。エストロゲンには骨の形成を促す作用があり、特に閉経後は急速に骨量が減りますので、ホルモン補充療法をすることにより、骨粗しょう症の予防にも大きな効果が期待できます。
 一方で、ホルモン治療に対しては、がんの発症を心配する人も少なくありません。米国の大規模臨床試験でホルモン補充療法を長期間(5~10年以上)続けると、乳がんや心臓病のリスクが高くなるという報告があります。6カ月から1年に一度の血液検査、子宮がん検査(頚部=けいぶ=、体部)、乳がん検査などが必要です。ホルモン補充療法には更年期のつらい症状を改善したり、骨粗しょう症の予防、さらに皮膚の若さを保つなどの効果もあります。薬の種類や組み合わせ、使用する期間などを考慮することにより副作用の少ない治療が可能です。

ホルモン治療を避けたい人は、どうしたら良いでしょうか。

 漢方治療は、ホルモン治療を希望しない方や、加齢の流れの中でつらい症状を一つずつゆっくり取り除きながらホルモンの減少に体を慣らしていきたいという方に向いている治療法です。漢方薬は幾つかの生薬を組み合わせて用いられ、体調や体質に合わせて様々な種類があります。例えば当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)にはセリ科のトウキの根が入っていて、のぼせや発汗、冷えなどを改善する作用があります。病院、クリニックで処方する漢方薬はエキス剤(製薬会社が生薬をせんじて乾燥)が主で、健康保険が適用されています。

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