2004年9月8日水曜日

「傷は乾かしてはいけない」について

ゲスト/宮の森スキンケア診療室  上林 淑人 医師

すり傷の治し方を教えてください。

 けがで生じた傷、特にすり傷(挫傷や擦過症)は、乾燥させれば早く治ると考えている人が多いのですが、まったく逆です。すり傷を乾かすとかさぶたができますが、治りきっていない状態ではがすと、出血しやすいジクジクしたなま傷が姿を現します。かさぶたの下には湿潤な傷があり、それをかさぶたが覆い乾燥を防いで傷を治すための環境を作っているのです。それならば、最初から傷を乾かさずに、かさぶたを作る手間を省けば、早く傷が治るということになります。早く治れば、それだけ瘢痕(はんこん)が少なく、きれいに治癒します。また、すり傷などの表面には、傷の再生に必要な表皮細胞や線維芽細胞が多数存在しています。細胞が生きていくには水分が不可欠です。さらに、これら表皮細胞や線維芽細胞は、サイトカインという傷を治すのに必要な成分を分泌します。乾燥した環境では、表皮細胞や線維芽細胞は生きていけず、それらから出るサイトカインの効果は発揮されません。

どのような治療法が正しいのでしょうか。

 外用剤をたっぷり塗って、すり傷が乾くのを防ぎます。主に抗生物質軟膏(こう)が用いられますが、深い傷の場合は潰瘍(かいよう)治療剤を使うこともあります。これらの第一の目的は創面を湿潤に保つこと、そして本来の役割である感染防止と治癒促進効果が加わり、傷は早く治ります。外用剤を塗った上から、傷に密着しない被覆材(ガーゼ付き絆創膏など)を用います。被覆材が傷に密着すると、くっついてはがす際に再び傷を作ることになり治癒が遅れます。一般的にガーゼは乾燥させやすく、傷とくっつきやすい特徴がありますから、すり傷を覆うものとしては不適ですが、外用剤を多めに塗れば、傷にくっつくことなく使用できます。また、最近は傷にくっつかない被覆材も開発されていますから、それらを選ぶといいでしょう。
 最近、「ラップ療法」という治療法が話題に上っています。傷を消毒せず水洗いしてラップで覆うという方法です。一部には有効ですが、深い傷や感染を伴う場合は逆効果になることもあります。傷が深い場合は、専門医を受診してください。

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