2003年10月22日水曜日

「難治性の痛み」について

ゲスト/札幌一条クリニック 後藤康之 医師

難治性の痛みについて教えてください。

 打撲など、神経の末端に刺激が加わり、神経を伝わって「痛み」として脳に伝達された場合は、時間が経てば治る場合がほとんどです。鎮痛剤も効くし、きちんと治療さえしていれば完治する「治りやすい痛み」といえます。逆に「治りづらい痛み」、難治性の疼(とう)痛というものがあります。代表的なものとしては、痛みを伝達する神経自体に何らかの損傷が起きた場合です。帯状疱疹(たいじょうほうしん)を放置したために残った疼痛や、三叉(さんさ)神経痛、幻肢痛などで、これらの痛みを緩和するには、薬物投与、神経ブロック療法、理学療法など、各方面からのアプローチが必要になります。  また、背骨の変形によって脊椎(せきつい)が狭くなり、神経や脊髄(せきずい)を圧迫することによる痛みや、背骨のズレや骨粗しょう症による変形などの疼痛は、一般に高齢者の方が多く、痛みの緩和が困難です。硬膜外ブロック療法などペインクリニックによる疼痛の緩和も1度で痛みが取れるということはなく、他科と連携しながらの治療となります。さらに、心理的な要因による痛みは、その原因を取り除くことが根本的な治療となるため、治療が難しくなります。身近な難治性の痛みとしては、筋膜性疼痛症候群、いわゆる肩こりや首、背中、腰の痛みがあります。多く人が悩んでいますが、根本的な治療はやはり難しい場合もあります。

難治性の痛みに周囲はどのように対応すればよいですか。

 痛みのメカニズムが解明され始めたのは、20年程前からです。アメリカでは、疼痛治療は医師を目指すものにとって必修になっていますが、日本ではまだあまり重要視されていないのが現状です。痛みを完全にコントロールすることは、実際には難しいのです。しかし、「痛い」という事実は、当事者に大変なダメージとストレスを与えます。痛みの原因となる疾病を診断し、治療することは重要ですが、同時に今ある痛みを緩和し、患者の生活の質を上げることが必要です。周りの人も、「痛いはずがない」「痛くても当たり前」というようなとらえ方をせず、痛みのつらさを理解し、積極的に治療を受けさせてください。

2003年10月15日水曜日

「開咬(かいこう)」について

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 歯科医師

開咬について教えてください。

 開咬は、奥歯で噛(か)んでも前歯は噛んでおらず、常に前歯が開いた状態になることをいいます。人間は、普段意識しなくても、物を飲み込んだ場合、舌先は上の前歯の歯肉の裏側に付いています。前歯は外側からは唇(くちびる)の力、内側からは舌の力によって押され、力のバランスのとれたところに並びます。このバランスが崩れると開咬になることがあります。小さいころからの指しゃぶり、食べ物を飲み込むときに舌が出るなどの舌癖、蓄膿(ちくのう)症など呼吸器系の慢性的な疾患による口呼吸などはこのバランスを崩す要因となります。そのほかに、遺伝的な顎(あご)の骨格などが原因で発症することもあります。機能面での問題も大きく、きちんと発音できなかったり、前歯で食物を噛み切ることができず、奥歯や舌を使って噛み切る癖がついていたりします。奥歯の負担が大きいため、奥歯の寿命にも影響する場合があります。口自体も閉じづらく、無理に閉じると口元が常に緊張して見えます。

どのように治療するのでしょうか。

 開咬は、原因が悪癖にある場合には、早い段階からの治療が何よりも大切です。軽い開咬で早い時期なら、MFT(口腔=こうくう=筋機能療法)という、口元の筋肉のトレーニングだけで矯正できる場合もありますが、矯正装置の装着が必要な場合もあります。大人になってからでは、外科的手術が必要になることがあり、大変な時間や負担が掛かります。また日常生活の中での悪癖が原因の場合、矯正後に悪癖が残っていては、開咬に戻ってしまいます。治療とともに悪癖を取り除く訓練をすることが重要です。受診の目安は、前歯が4本永久歯に生え替わった時期です。乳歯から永久歯への移行を、より自然に、正しく美しい歯並びに誘導することが可能です。これは開咬だけではなく、受け口(反対咬合=こうごう)、出歯(上顎=がく=前突)、乱ぐい歯なども同様です。歯科医で歯の検診を受けるように、歯並びの検診を受けるつもりで矯正歯科医を訪ねてみてください。ほとんどの専門医は相談のみでも受け付けますから、事前に電話で、気になる点を確認しましょう。

2003年10月8日水曜日

「肺炎」について

ゲスト/岡本病院 松浦 信博 医師

肺炎について教えてください。

 多くの人が「肺炎で命を落とす人は少ない」と考えていませんか。実際、現代でも肺炎は日本人の死因の第4位で、生死にかかわる重大な疾患の1つです。昔から肺炎は「老人の友」と呼ばれており、肺炎が原因で死亡した人の92%を、65歳以上の高齢者が占めています。肺炎には大きく分けて市中肺炎と院内肺炎があります。市中肺炎は風邪症候群に続発して発症するもので、健常な若年成人に多くみられます。起因微生物による分類としては、細菌性の肺炎と、マイコプラズマ肺炎、レジオネラ肺炎、話題になった新型肺炎(SARS)のようなウイルス性肺炎などの異型性肺炎に分けられます。症状としては、6日以上の発熱、せき、痰(たん)、胸膜痛、息切れ、全身倦怠(けんたい)感、頭痛などが挙げられます。特に肺炎球菌による肺炎は、悪寒戦慄(せんりつ)が特徴的です。胸膜痛がある場合は、肺炎の可能性が高くなるので、注意深い観察が必要です。高齢者、喫煙者、肺疾患患者、大酒家、糖尿病患者、インフルエンザ罹患(りかん)者、ステロイド使用者などは、肺炎にかかりやすい状態にあるので、注意してください。食生活が乱れ栄養が偏っていたり、不規則な生活をしている人も同様です。市中肺炎は、早めに治療を始めれば、多くの場合、投薬だけで治癒します。風邪をこじらせて肺炎になる場合がほとんどなので、風邪症候群の段階で、十分な栄養と水分を取り、安静にすることが1番の予防です。

院内肺炎とは、どのような肺炎ですか。

 入院中の免疫力の低下した患者(自宅療養も含む)に合併する肺炎で、その多くが誤嚥(ごえん)性肺炎で悪臭痰を伴うのが特徴的です。市中肺炎と異なり典型的な症状に乏しく、全身倦怠感や食欲不振、意識障害だけの症状で、肺炎の診断が遅れることもあります。起因菌は、グラム陰性菌、嫌気性菌、真菌などで、いずれも重篤な症状に陥りやすく、肺炎による死亡者のほとんどが院内肺炎によるものです。診断には血液検査、胸部レントゲンのほか、胸部CTを行うとより的確な診断ができます。肺炎を繰り返すと肺の機能自体が低下するので、誤嚥(誤って異物が気管に入ること)の予防に努めることが重要です。

2003年10月1日水曜日

「更年期障害のホルモン補充療法の是非」について

ゲスト/札幌東豊病院 野村 靖宏 医師

更年期障害について教えてください。

 女性の平均閉経年齢は50.5歳で、この前後から急速に性腺機能が低下し、特に卵巣では卵胞発育・排卵・黄体形成の一連の機能が停止します。これに伴い女性ホルモンの分泌が減少し、ほてりや動悸(どうき)、のぼせ、うつ、性欲減退、乾燥による性交痛など、更年期障害と呼ばれるさまざまな症状が出現します。また、女性ホルモン、エストロゲンの不足によって、骨粗しょう症、高脂血症、動脈硬化などが出現します。更年期障害の不快な症状を改善し、骨粗しょう症、高脂血症などを予防するために、ホルモン補充療法があります。これは、1960年代から行われている治療で、欧米では対象女性の約30%が投薬を受けているポピュラーな治療法です。日本では漢方による治療もあり、ホルモン補充療法を受けている人は2%程度です。

ホルモン補充療法は安全なのでしょうか。

 昨年、アメリカ保健局からホルモン補充療法の大規模試験の結果が報告されました。それによると、骨粗しょう症、大腸ガンの減少には有効だが、動脈硬化、血栓、乳ガンは増加するというものでした。この報告を受けて、日本でもホルモン補充療法の是非が話題になりました。実際に治療中の患者さんの中にも不安を感じられた方が多いと思います。調べてみると、今回の大規模臨床試験の対象者は平均で63歳と高齢で、50~60歳くらいまで服用する日本とは事情が違います。また、6割が肥満や肥満気味、喫煙率は5割、3人に1人が高血圧であるということが判明しました。日本とは事情が違うので、アメリカの結果を受けて、そのまま日本人に当てはめて良いのか疑問が残ります。今後は長期的な追跡調査などをして日本独自のデータ収集が必要になるでしょう。現時点では、間違いなく更年期障害の不快な症状を緩和し、骨粗しょう症、大腸ガンを予防します。リスクとしては乳ガンの微増、また循環器の疾病を予防する働きはあまり期待できないということです。ホルモン補充療法を受ける場合は、ハイリスクな疾病がないか、定期的な健康診断を欠かさず、乳ガン検診を受けるなどが重要です。閉経後数年間、ホルモン補充療法を行うくらいが良いと思われます。

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