2003年12月17日水曜日

「インフルエンザ」について

ゲスト/にしはら内科クリニック 笹村 崇子 医師

インフルエンザについて教えてください。

 インフルエンザの流行は、例年11~4月に集中します。インフルエンザに罹患(りかん)した人が、クシャミやせきをするとウイルスが空気中に広がり、それを吸い込むことによって感染します。潜伏期間は感染後1~5日で、突然の高熱で発症し、悪感、筋肉痛、関節痛、全身倦怠(けんたい)感など、強い全身症状を示すのが特徴です。さらに普通の風邪のようなせき、のどの痛み、鼻水などもあります。一般には3~7日程度続き、以降軽快しますが、細菌感染を合併したり、不摂生があると長引く場合もあります。また、軽快しているのに倦怠感や意欲低下が続くインフルエンザ後症候群を来す場合もあります。高齢者や心臓、呼吸器、腎臓などに慢性疾患を持つ人、糖尿病の人などは重症化することがあるので注意が必要です。

予防と治療の方法を教えてください。

 基本は予防接種を受けることです。インフルエンザワクチンを接種しても100%感染を防ぐことはできませんが、重症化を予防することはできます。特に65歳以上の人には、ワクチン接種をお勧めします。ただし、インフルエンザウイルス以外が原因による風邪には効果がありません。個人差はありますが、ワクチン接種後、効果発現まで約2週間かかり、効果持続期間は5カ月程度です。流行が予想される1カ月ほど前に接種することをお勧めします。そのほか、一般の風邪予防と同様に、うがい、手洗い、外出時のマスク着用なども効果的です。流行期はなるべく人込みを避け、バランスの良い食事、睡眠、部屋の適度な加湿などを心掛けましょう。インフルエンザにかかったかなと思ったら、早めに医療機関で治療を受けてください。のどまたは鼻の中をぬぐった液を採取し、インフルエンザウイルスに感染しているかどうかを検査します。現在、治療薬として抗ウイルス薬がありますが、症状が出てから48時間以内に服薬すると、罹病期間を短縮し、重症化するのを防ぐ効果が認められています。症状が治まり熱が下がっても、人にうつす可能性があるので、人が集まる場所はしばらく避けた方がよいでしょう。

「糖尿病性腎症」について

ゲスト/青木内科クリニック 青木 伸 医師

糖尿病性腎症について教えてください。

 糖尿病は、さまざまな合併症を引き起こすことで知られています。その代表的なものの1つが腎症です。糖尿病性腎症は、腎臓の細小血管が高血糖によって狭くなり、老廃物をろ過できなくなるために起こります。高血糖のほか、肥満や高タンパク、塩分の取り過ぎなどが加わると病状の進行が一段と早くなります。腎症が腎不全まで進行すると、人工的な装置で腎機能を代行する透析療法を受けなければ、生命を維持できなくなります。日本では、糖尿病が原因の人工透析患者が年々増加しており、1998年以降、透析患者に占める糖尿病性腎症患者の割合が第1位になっています。また、糖尿病によって透析治療まで進んだ場合、残念ながらその後の経過も楽観できるものではありません。

糖尿病性腎症を予防するにはどうしたら良いですか。

 糖尿病は決して珍しい病気ではありません。40歳以上の日本人の6人に1人は糖尿病といわれています。糖尿病自体は、初期に血糖コントロールをきちんと行っていれば恐ろしい病気ではないのです。しかし、これといった自覚症状がないため、受診しなかったり、治療を中断したり、生活習慣を改めなかったりすると、本人が気付かないうちに進行し、血管に負担がかかり、腎不全をはじめ、足の切断や失明など深刻な合併症に至ります。検診などで血糖値が高いと指摘されたら、必ず専門医を受診してください。主な治療は投薬と、日常生活の中での血糖値及び血圧の管理です。糖尿病を進行させないためには、HbA1c(過去1~2カ月の平均的血糖値)を6.4%以下、血圧を130/85以下に維持します。高血圧治療で大事なことは、血圧を正常にすることと、腎臓病を予防することですが、最近は血圧を下げる薬のうち、腎臓病を予防できる薬も登場してきています。もちろん、余病を防ぐには食事療法や軽い運動も必要です。対処が早いほど、つらい思いをせずに長期に支障なく生活できます。血糖値が高い、糖尿病の疑いがあるといわれたら、信頼できる主治医のもと、自身の病気を理解し、積極的に向き合うことが肝心です。

2003年12月10日水曜日

「ほくろ」について

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 医師

ほくろについて教えてください。

 ほくろは、母斑細胞母斑という皮膚腫瘍(しゅよう)の一種で、ほとんどの場合は良性です。黒く丸い形をした平板なほくろ以外にも、盛り上がったもの、茶色やグレーのもの、毛が生えているものなど、さまざまです。基本的に良性のものであれば、気にならなければ、そのままにしておいて問題ないのですが、まれではありますが、「ほくろのがん」である悪性黒色腫(メラノーマ)である可能性もあり、これを疑う場合は切除するなど治療が必要になります。例えば、形がいびつになってきた、色にムラが出てきた、最近急に大きくなってきた、時々出血するなどは悪性を疑わせる所見なので注意が必要です。また、足の裏、手のひらや指にできたほくろは、ほかの部位に比べて悪性である可能性が高いといわれています。気になるほくろがある場合は、1度専門医に診てもらいましょう。また、特に悪性を疑わない場合でも、大きくて邪魔になる、洗顔や入浴の際にタオルが擦れてよく腫(は)れる、下着や服があたって痛いなどの症状を伴う場合は、治療を考えた方がよいでしょう。

治療の方法を教えてください。

 確実にほくろを取り除くには、切除が必要です。たいていは短時間で済む局所麻酔手術が可能です。しかし、結果的に傷あとが残りますので、残る傷あとに関して、医師とよく相談することをお勧めします。小さいほくろであれば、レーザー治療も可能です。しかし、レーザー治療の場合、ほくろを確実に取り除けるわけではありません。薄く目立たなくするための治療であり、1度で済まないこともあります。自分にとってどの治療法が適しているか、医師と納得いくまで話し合ってください。また悪性黒色腫は、極めて悪性度の高い皮膚がんです。このため早期発見・早期治療が基本です。気になるほくろや心配なほくろは放置せず、ぜひ1度専門医を訪ねてみてください。

2003年12月3日水曜日

「前立腺肥大症」について

ゲスト/元町泌尿器科 西村 昌宏 医師

前立腺肥大症について教えてください。

 前立腺は、クルミ大の大きさで膀胱(ぼうこう)の出口にあり、尿道を取り巻いている男性特有の臓器で、精のう腺とともに分泌液を出す働きをします。前立腺は肥大化する傾向があり、50歳を過ぎたころから肥大が進み、やがて尿道を締め付けて、尿が出づらくなります。症状の進み具合には個人差がありますが、60代で約6割、70代で約7割の人が肥大症に罹患(りかん)しているといわれています。前立腺肥大症の主な症状としては、夜間トイレに行く回数が多くなる、尿に勢いがない、尿がすぐ出ない、少ししか出ない、時間がかかる、尿を出した後も残尿感があり、すっきりとしないなどがあります。また、α(アルファ)交感神経が刺激され、尿が少したまっただけで尿意が感じられ、やがて尿が出づらくなり、残尿によって、さらにトイレが近くなってしまいます。「年だから仕方がない」と放っておくと膀胱の働き自体が弱くなり、尿管や腎臓へ悪影響を及ぼすこともあります。就寝中に3回以上トイレに起きるようになったら、1度泌尿器科を受診することをお勧めします。

診断や治療方法にはどのようなものがありますか。

 問診や触診のほか、尿の波形や尿流量を測定したり、画像診断を行います。症状に類似点の多い前立腺がんの検査も同時に行う場合がほとんどです。ある程度尿をためた状態で受診すると、検査が1度で済み、効率的です。治療としては、初期であれば薬物療法で症状が改善されます。ただ、薬を飲み続けなければならないので完全な治癒には至りません。症状が進んでいる場合は、前立腺部分の尿道を広げる手術をします。腰椎(ようつい)麻酔で20分程度の比較的簡単なもので、入院期間は約10日間です。年末年始やゴールデンウィークなどまとまった休みが取れるまで、薬で治療し、その後手術ということも可能なので、医師に相談してください。手術をしたくないという人には、尿道から前立腺に熱を加える高温度治療法があります。手術よりも簡易で、2泊程度の入院で行え、忙しい方は外来でも治療可能です。根本的な治癒には至りませんが、半年~2年程度効果が持続します。

2003年11月26日水曜日

「義歯との付き合い方」について

ゲスト/庄内歯科医院 庄内 淳能 歯科医師

義歯との上手な付き合い方について教えてください。

 装着感が自然で、安心して物を噛(か)めることが肝心です。そのためには、痛みや違和感がなくなるまであきらめないで調整をしてもらいましょう。入れ歯の調整には根気強さが必要です。痛みや違和感のある入れ歯は、つい外しがちになってしまいますが、装着しない時間が長くなると顎位(がくい)が安定せず、咬(か)み合わせに不都合が生じたり、残った歯が移動して歯間に隙間ができたりします。顎位の変化や歯の移動によって、入れ歯の痛みや違和感が大きくなり、装着することがつらくなります。悪循環に陥らないためにも装着して痛みや違和感のない義歯であることが大切です。また、徐々に歯茎の凸凹が無くなり、平坦(たん)になるなど、口腔(こうくう)内の変化によって義歯の安定感が失われた場合は、義歯にソフト裏装材を装填(てん)することも可能です。市販の入れ歯安定剤は応急処置的に使用する程度なら問題ないのですが、何度も使うと義歯に厚みが生じて、顎位に影響を及ぼす可能性があります。半年に1度程度は歯科で検診を受け、義歯が適切な状態か調べてもらいましょう。合わない義歯を無理して使い続けることはありません。

手入れ方法や義歯の種類について教えてください。

 義歯は、寝る前に専門の洗浄剤に漬けておくことがありますが、義歯の素材や洗浄剤の成分によっては変質してしまうこともあるので注意が必要です。ブラッシングは毎食後、洗浄は毎日必ず実行してください。義歯を入れてないと熟睡できないという人は、入れたまま眠っても良いのですが、就寝前と朝起きたら必ず洗いましょう。また、義歯は口腔内というデリケートな部分に異物を長時間入れることになるので、金属や特定の樹脂によるアレルギー反応が出る恐れもあります。口の中に治りづらいただれなどが出た場合はすぐに受診しましょう。金属のバネを使わないプラスチックのみの義歯や、磁石によって固定する義歯、金、チタンなど特殊な素材を使った義歯などもあります。健康保険が適用にならないものもあるので、納得いくまで歯科医に相談してください。

2003年11月19日水曜日

「緑内障」について

ゲスト/誠心眼科病院 前川 浩 医師

緑内障について、教えてください。

 緑内障は、視神経に障害が起き、視野が狭くなったり、視力が弱くなったりする病気です。放っておくと失明に至る場合もあり、糖尿病に次いで日本人の失明原因の第2位になっています。先天性のものと後天性のものがありますが、ここでは後天性の緑内障についてお話しします。緑内障の原因は複雑で、環境と体質的な要素に加齢が加わって出現する疾患といえます。緑内障は「眼圧が高い」という印象がありますが、眼圧が正常な緑内障が予想以上に多いことがわかってきました。緑内障疫学調査によると、40歳以上の日本人の5.78%が緑内障に罹患(りかん)しており、疑いのある人も含めると、実に8%にも上るという数字が出ています。さらに、その約8割が未受診です。緑内障であるにもかかわらず、自身の疾患を認識していないということです。緑内障の進行は一般に遅く、自覚の無いまま受診した時には、すでに末期であるという場合も多いです。

緑内障の予防と治療について教えてください。

 原因がはっきりしないため、有効な予防方法はありません。緑内障になりやすい条件として、近視が強い、40歳以上、家族や親族に緑内障の患者がいる、ストレスが強いなどが挙げられます。自覚症状としては、光の周りにカサや虹がかかって見える、近くの物が見えづらい、原因が無いのに目が疲れやすいなどがあります。しかし、このような症状が出るのは、かなり進行してからです。緑内障は残念ながら完治することはなく、進行を防ぐことが治療の主体となります。軽度の時点で発見し、その状態を維持することが、緑内障においては最善の策です。治療は眼圧を下げる目薬の点眼や内服薬が一般的です。レーザー治療や手術は、薬による治療が限界に達した場合に行います。緑内障と診断されても、定期的に受診し、薬で眼圧をコントロールしていれば、必要以上に恐れることはありません。緑内障の検査は、眼圧、眼底、視野を調べる、簡単なものです。40歳を過ぎたら症状が無くても、眼科で緑内障の検査を受けることをお勧めします。

2003年11月12日水曜日

「睡眠時無呼吸症候群」について

ゲスト/大道内科・呼吸器科クリニック 大道 光秀 医師

睡眠時無呼吸症候群について教えてください。

 文字通り、睡眠中に呼吸が止まる症状で、睡眠障害の一種です。睡眠中に呼吸が止まった状態が10秒以上続く、これが1時間に5回以上、一晩に30回以上あるようなら、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。一晩の間に無呼吸状態といびきをかく状態が何十回、何百回と繰り返されるため、熟睡したという感覚がなく、昼間なのに眠かったり、ぼんやりして注意力を欠く、頭が重い、などの症状が出ます。これが原因で、ち密な作業ができなかったり、注意力散漫から事故を引き起こしたりする場合もあります。主な原因は肥満で、上気道周囲に脂肪が付いて気道が狭くなっていることによって気道がふさがれ、無呼吸症状になります。肥満以外でも、アルコール摂取によって舌筋などが弛緩(しかん)する、遺伝的に上気道が狭い、扁桃(へんとう)肥大、舌の肥大などが原因の場合もあります。女性よりも男性に多く、肥満者の多い米国では以前から研究されてきました。日本でも、重大な事故の原因として取り上げられてから注目が集まり、最近では成人男性の3~4%以上がこの症状に当てはまると推定されています。

診断、治療方法を教えてください。

 睡眠時無呼吸症候群ではないかと受診にくる人の多くは、本人に自覚が少なく、家族に指摘されて来院することが多いようです。もちろん、自身で夜中に目が覚めやすいなどと認識している場合もあります。自身、あるいは周囲の人が睡眠時無呼吸症候群を疑ったら、呼吸器や睡眠を専門とする医師を訪ねることをお勧めします。睡眠中の呼吸活動、いびき、脳波、心電図などを一晩かけて調べるポリソムノグラフィという機器で計測し、病状を把握します。この検査のうち簡便な方法は自宅でもできます。仰向けで寝ないようにするだけでも症状が軽くなる人もいますし、特殊なマウスピースの使用、鼻から空気を送り込む装置の装着などの治療法もあります。肥満が原因の場合は体重を減らすことが重要です。熟睡できるようになると、驚くほど日中の生活が楽になります。思い当たる人は1度受診することをお勧めします。

2003年11月5日水曜日

「スポーツ障害」について

ゲスト/山口整形外科クリニック 山口秀夫 医学博士

スポーツ障害について教えてください。

 スポーツ障害には大きく分けて2種類あります。1つは競技中に発生するケガで、捻挫(ねんざ)と突き指がその代表です。捻挫とは、骨と骨をつなぐ靭帯(じんたい)というヒモ状の組織が損傷を受けることをいい、少し伸びた程度から断裂まで程度はさまざまです。断裂を放置すると靭帯が完全に伸びてしまい、その後少しの衝撃で捻挫を繰り返す危険があります。また、指の第1関節が伸びなくなる突き指は、指を伸ばす腱(けん)が切れている場合と、腱の付着部分が骨折している場合があり、骨折には手術が必要です。いずれも放置したままでは治らないので、早期に正しい治療を受けることが大切です。もう1つは、トレーニング過多によるスポーツ障害。野球少年のひじや、ジョギング愛好者のひざの障害がその典型です。骨の強度が十分でない少年期に過度の投球練習をすると、ひじの骨が欠けたり、ひじが十分に伸びなくなることがあります。最近では、甲子園大会に出場した選手のその後の活躍が少ない原因の一つとも考えられ、出場選手のひじの検診が各地で実施されるようになりました。ジョギング愛好者のひざの痛みは、ひざを曲げる筋肉の腱が骨と何度もこすれ合い、炎症を起こすのが原因です。痛みを軽くするために、できるだけアスファルトではなく土の上を走るようにしてください。シューズの裏を見て、片側だけが擦り減っている場合は、フォームが悪いことも考えられます。健康のためにスポーツをするの

スポーツ障害に専門医はいますか。

 スポーツ障害の治療や、競技能力の向上を科学的にサポートする「スポーツドクター」です。各種競技会のメディカルスタッフ、選手へトレーニング指導をするプロチームの専任ドクター、学校やスポーツクラブでのトレーニング指導・講演など活躍の場は多岐にわたります。スポーツ中に異常を感じたら、早めにスポーツドクターのアドバイスを受けることをお勧めします。

2003年10月22日水曜日

「難治性の痛み」について

ゲスト/札幌一条クリニック 後藤康之 医師

難治性の痛みについて教えてください。

 打撲など、神経の末端に刺激が加わり、神経を伝わって「痛み」として脳に伝達された場合は、時間が経てば治る場合がほとんどです。鎮痛剤も効くし、きちんと治療さえしていれば完治する「治りやすい痛み」といえます。逆に「治りづらい痛み」、難治性の疼(とう)痛というものがあります。代表的なものとしては、痛みを伝達する神経自体に何らかの損傷が起きた場合です。帯状疱疹(たいじょうほうしん)を放置したために残った疼痛や、三叉(さんさ)神経痛、幻肢痛などで、これらの痛みを緩和するには、薬物投与、神経ブロック療法、理学療法など、各方面からのアプローチが必要になります。  また、背骨の変形によって脊椎(せきつい)が狭くなり、神経や脊髄(せきずい)を圧迫することによる痛みや、背骨のズレや骨粗しょう症による変形などの疼痛は、一般に高齢者の方が多く、痛みの緩和が困難です。硬膜外ブロック療法などペインクリニックによる疼痛の緩和も1度で痛みが取れるということはなく、他科と連携しながらの治療となります。さらに、心理的な要因による痛みは、その原因を取り除くことが根本的な治療となるため、治療が難しくなります。身近な難治性の痛みとしては、筋膜性疼痛症候群、いわゆる肩こりや首、背中、腰の痛みがあります。多く人が悩んでいますが、根本的な治療はやはり難しい場合もあります。

難治性の痛みに周囲はどのように対応すればよいですか。

 痛みのメカニズムが解明され始めたのは、20年程前からです。アメリカでは、疼痛治療は医師を目指すものにとって必修になっていますが、日本ではまだあまり重要視されていないのが現状です。痛みを完全にコントロールすることは、実際には難しいのです。しかし、「痛い」という事実は、当事者に大変なダメージとストレスを与えます。痛みの原因となる疾病を診断し、治療することは重要ですが、同時に今ある痛みを緩和し、患者の生活の質を上げることが必要です。周りの人も、「痛いはずがない」「痛くても当たり前」というようなとらえ方をせず、痛みのつらさを理解し、積極的に治療を受けさせてください。

2003年10月15日水曜日

「開咬(かいこう)」について

ゲスト/E-line矯正歯科 上野 拓郎 歯科医師

開咬について教えてください。

 開咬は、奥歯で噛(か)んでも前歯は噛んでおらず、常に前歯が開いた状態になることをいいます。人間は、普段意識しなくても、物を飲み込んだ場合、舌先は上の前歯の歯肉の裏側に付いています。前歯は外側からは唇(くちびる)の力、内側からは舌の力によって押され、力のバランスのとれたところに並びます。このバランスが崩れると開咬になることがあります。小さいころからの指しゃぶり、食べ物を飲み込むときに舌が出るなどの舌癖、蓄膿(ちくのう)症など呼吸器系の慢性的な疾患による口呼吸などはこのバランスを崩す要因となります。そのほかに、遺伝的な顎(あご)の骨格などが原因で発症することもあります。機能面での問題も大きく、きちんと発音できなかったり、前歯で食物を噛み切ることができず、奥歯や舌を使って噛み切る癖がついていたりします。奥歯の負担が大きいため、奥歯の寿命にも影響する場合があります。口自体も閉じづらく、無理に閉じると口元が常に緊張して見えます。

どのように治療するのでしょうか。

 開咬は、原因が悪癖にある場合には、早い段階からの治療が何よりも大切です。軽い開咬で早い時期なら、MFT(口腔=こうくう=筋機能療法)という、口元の筋肉のトレーニングだけで矯正できる場合もありますが、矯正装置の装着が必要な場合もあります。大人になってからでは、外科的手術が必要になることがあり、大変な時間や負担が掛かります。また日常生活の中での悪癖が原因の場合、矯正後に悪癖が残っていては、開咬に戻ってしまいます。治療とともに悪癖を取り除く訓練をすることが重要です。受診の目安は、前歯が4本永久歯に生え替わった時期です。乳歯から永久歯への移行を、より自然に、正しく美しい歯並びに誘導することが可能です。これは開咬だけではなく、受け口(反対咬合=こうごう)、出歯(上顎=がく=前突)、乱ぐい歯なども同様です。歯科医で歯の検診を受けるように、歯並びの検診を受けるつもりで矯正歯科医を訪ねてみてください。ほとんどの専門医は相談のみでも受け付けますから、事前に電話で、気になる点を確認しましょう。

2003年10月8日水曜日

「肺炎」について

ゲスト/岡本病院 松浦 信博 医師

肺炎について教えてください。

 多くの人が「肺炎で命を落とす人は少ない」と考えていませんか。実際、現代でも肺炎は日本人の死因の第4位で、生死にかかわる重大な疾患の1つです。昔から肺炎は「老人の友」と呼ばれており、肺炎が原因で死亡した人の92%を、65歳以上の高齢者が占めています。肺炎には大きく分けて市中肺炎と院内肺炎があります。市中肺炎は風邪症候群に続発して発症するもので、健常な若年成人に多くみられます。起因微生物による分類としては、細菌性の肺炎と、マイコプラズマ肺炎、レジオネラ肺炎、話題になった新型肺炎(SARS)のようなウイルス性肺炎などの異型性肺炎に分けられます。症状としては、6日以上の発熱、せき、痰(たん)、胸膜痛、息切れ、全身倦怠(けんたい)感、頭痛などが挙げられます。特に肺炎球菌による肺炎は、悪寒戦慄(せんりつ)が特徴的です。胸膜痛がある場合は、肺炎の可能性が高くなるので、注意深い観察が必要です。高齢者、喫煙者、肺疾患患者、大酒家、糖尿病患者、インフルエンザ罹患(りかん)者、ステロイド使用者などは、肺炎にかかりやすい状態にあるので、注意してください。食生活が乱れ栄養が偏っていたり、不規則な生活をしている人も同様です。市中肺炎は、早めに治療を始めれば、多くの場合、投薬だけで治癒します。風邪をこじらせて肺炎になる場合がほとんどなので、風邪症候群の段階で、十分な栄養と水分を取り、安静にすることが1番の予防です。

院内肺炎とは、どのような肺炎ですか。

 入院中の免疫力の低下した患者(自宅療養も含む)に合併する肺炎で、その多くが誤嚥(ごえん)性肺炎で悪臭痰を伴うのが特徴的です。市中肺炎と異なり典型的な症状に乏しく、全身倦怠感や食欲不振、意識障害だけの症状で、肺炎の診断が遅れることもあります。起因菌は、グラム陰性菌、嫌気性菌、真菌などで、いずれも重篤な症状に陥りやすく、肺炎による死亡者のほとんどが院内肺炎によるものです。診断には血液検査、胸部レントゲンのほか、胸部CTを行うとより的確な診断ができます。肺炎を繰り返すと肺の機能自体が低下するので、誤嚥(誤って異物が気管に入ること)の予防に努めることが重要です。

2003年10月1日水曜日

「更年期障害のホルモン補充療法の是非」について

ゲスト/札幌東豊病院 野村 靖宏 医師

更年期障害について教えてください。

 女性の平均閉経年齢は50.5歳で、この前後から急速に性腺機能が低下し、特に卵巣では卵胞発育・排卵・黄体形成の一連の機能が停止します。これに伴い女性ホルモンの分泌が減少し、ほてりや動悸(どうき)、のぼせ、うつ、性欲減退、乾燥による性交痛など、更年期障害と呼ばれるさまざまな症状が出現します。また、女性ホルモン、エストロゲンの不足によって、骨粗しょう症、高脂血症、動脈硬化などが出現します。更年期障害の不快な症状を改善し、骨粗しょう症、高脂血症などを予防するために、ホルモン補充療法があります。これは、1960年代から行われている治療で、欧米では対象女性の約30%が投薬を受けているポピュラーな治療法です。日本では漢方による治療もあり、ホルモン補充療法を受けている人は2%程度です。

ホルモン補充療法は安全なのでしょうか。

 昨年、アメリカ保健局からホルモン補充療法の大規模試験の結果が報告されました。それによると、骨粗しょう症、大腸ガンの減少には有効だが、動脈硬化、血栓、乳ガンは増加するというものでした。この報告を受けて、日本でもホルモン補充療法の是非が話題になりました。実際に治療中の患者さんの中にも不安を感じられた方が多いと思います。調べてみると、今回の大規模臨床試験の対象者は平均で63歳と高齢で、50~60歳くらいまで服用する日本とは事情が違います。また、6割が肥満や肥満気味、喫煙率は5割、3人に1人が高血圧であるということが判明しました。日本とは事情が違うので、アメリカの結果を受けて、そのまま日本人に当てはめて良いのか疑問が残ります。今後は長期的な追跡調査などをして日本独自のデータ収集が必要になるでしょう。現時点では、間違いなく更年期障害の不快な症状を緩和し、骨粗しょう症、大腸ガンを予防します。リスクとしては乳ガンの微増、また循環器の疾病を予防する働きはあまり期待できないということです。ホルモン補充療法を受ける場合は、ハイリスクな疾病がないか、定期的な健康診断を欠かさず、乳ガン検診を受けるなどが重要です。閉経後数年間、ホルモン補充療法を行うくらいが良いと思われます。

2003年9月24日水曜日

「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」について

ゲスト/土田病院 日下 貴文 医師

ヘリコバクター・ピロリについて教えてください。

 ヘリコバクター・ピロリは、1980年代にオーストラリアの医師によって発見され、その後の研究によって胃や十二指腸の潰瘍(かいよう)の原因ということが明らかになりました。ピロリ菌に感染すると細菌自身が産出するサイトトキシンなどによる直接傷害と白血球や免疫細胞などによる間接傷害によって胃粘膜に傷が付き、慢性活動性胃炎が生じて胃粘膜がもろくなり、胃潰瘍が発生しやすくなります。発展途上国に多く、先進国に少ないといわれていますが、日本の感染者は約6000万人以上と推定されます。中でも、40歳以上で高率となります。感染するのは胃粘膜のみで、消化性潰瘍患者の7~8割が陽性です。従来は、薬剤を用いて潰瘍を治癒させても、内服を中断すると高い確率で再発していました。そのため、消化性潰瘍疾患には薬剤服用を維持することが不可欠でした。しかし、ヘリコバクター・ピロリの研究が進むにつれ、除菌に成功すると維持療法なしで再発がほぼ抑制されることが明らかになりました。日本では2000年11月からヘリコバクター・ピロリの診断と治療が、健康保険適用になり、難治性潰瘍や再発性潰瘍に悩んでいた人にとって大きな福音となりました。また、胃がんとの因果関係も解明されつつあり、除菌による胃がんの減少が期待されています。

具体的な診断、治療方法を教えてください。

 ヘリコバクター・ピロリ感染の診断にはいくつかの方法があります。胃の内視鏡検査時に採取された生検材料を用いて行う検査法と、尿素呼気試験など内視鏡を用いない検査法に大別されます。症状に合わせて検査を行い、感染が確定した場合は、除菌治療を行います。現在保険が適用されている除菌方法は、強力な酸分泌抑制剤と抗菌剤による治療で、1週間の服用を行います。治療薬剤の服用後4週間以降に尿素呼気試験などを行って、菌が消失したかどうかを調べます。この治療法による除菌率は8~9割です。胃・十二指腸潰瘍に悩んでいる人は、ぜひ一度専門医の診断を受け、治療されることをお勧めします。

2003年9月17日水曜日

「骨を延ばす(骨延長)矯正」について

ゲスト/つちだ矯正歯科クリニック 土田 康人 歯科医師

骨延長による矯正治療について教えてください。

 文字通り骨を延ばす治療法のことをいいます。顎(あご)を広げる場合に、外科手術で顎の骨を切断し、骨延長装置の装着を行います。その後、装置によって徐々に顎を広げ、骨の再生力によって新たな骨を形成していくという治療法です。予定の長さまで骨が形成されたら、装置を外します。手術は口の中にメスを入れるので、顔にキズが付くということはありません。また、装置自体も口の中にちょっとした突起がある程度なので、極端な違和感などはありません。手術、入院に2週間程度の時間が必要ですが、今まで改善が困難と思われていた重症の顎(がく)変形症でも治療が可能になり、また後戻りが少ないことが魅力です。もちろん手術前、手術後にも歯列を治し、咬(か)み合わせを調整する矯正治療が必要です。治療後は、咀嚼(そしゃく)、発音が不明瞭、顎の筋肉がだるいなどの症状が改善されます。このような機能面のみならず、審美面でも改善が期待されます。

どのような症状に適した治療法でしょうか。

 受け口と呼ばれる反対咬(こう)合、出歯と呼ばれる上顎(がく)前突、指しゃぶりなどが原因で上の前歯と下の前歯が咬み合わず、すき間が開いている開咬、顎が曲がった状態の顎(がく)偏位など、歯を移動させ、歯並びを整えるだけの矯正治療では治りきらない症状の場合、外科手術を行います。骨延長術によって、今までの外科手術では難しかった重度の症状でも治療が可能になりました。ただし、骨延長術を施術している病院はまだ少ないので、矯正専門医や口腔(こうくう)外科医などに相談してみてください。また、一般の矯正治療は保険外診療になりますが、前述のような症状で行う外科矯正は健康保険の適用になります。対象年齢は骨格が完成する高校生以上となります。このような反対咬合や開咬など顎の骨に異常があっても外科的矯正を行わずに治療したいという場合は、小学校1、2年生からの矯正治療が必要です。歯並びに気になる点があれば、気軽に矯正専門医に相談してください。

2003年9月10日水曜日

「白内障」について

ゲスト/青木眼科 大橋 勉 医師

白内障の症状、治療について教えてください。

 白内障は瞳の後ろにあるレンズ(水晶体)が濁るために起きる視力障害です。若い人にも見られることもありますが、40歳以上の方に多く、もっとも多いのが加齢に伴う老人性白内障です。症状としては、眼(め)のかすみ、ガスのかかったような視力低下、明るい場所で見えにくいなどを自覚します。治療には点眼薬が主に投与されますが、老化現象の1つなので、最終的には手術が必要になります。

白内障の手術はどのようなものですか。

 日本で行われている白内障の手術は年間80万件、眼科手術の約8割に及ぶといわれています。現在もっとも行われている手術は水晶体を包んでいる袋を残し、袋の中の濁りを超音波を利用して、細かくして取り除き、その袋の中に人工レンズを挿入するものです。手術に当たり患者さんに理解して頂きたいことは、安全性は高い手術になっていますが、患者さんそれぞれの眼がまったく同じではないため、同じ白内障の手術でも、手術の難易度に差があるということです。手術のしにくい眼とは、小さい眼や奥眼(おくめ)、角膜の濁りがある眼、袋を支えている糸が弱い眼などです。もっとも合併症が起きやすいのが、進行して真っ白になった白内障です。進行した白内障の濁りは非常に固く、超音波で細かくすることが出来にくかったり、袋を支える糸が弱いことが多く、このため、袋が破れて、濁りが眼の中に落下するような合併症が起こる可能性が高くなります。最近よく見かけるのは、片方の視力が良いため、進行した白内障を放置されている方が多いことです。進行は左右バラバラなので、「片目が見えるから大丈夫」と放っておかず、早めに検査を受けることをお勧めします。重度の合併症になると、眼内でばい菌が繁殖し、網膜自体が死んで失明に至ることもあります。これは数千人に1人という珍しい症例ですが、白内障手術はあまり進行しないうちに手術を受けた方が合併症が少ないことも知っていただけると幸いです。

2003年9月3日水曜日

「PETによるがんドック」について

ゲスト/札幌新世紀病院 阿部 信彦 理事長

国内のがんの状況をご紹介いただけますでしょうか。

 1981年以降、がんは日本人の死因のトップで、国民の約半数が生涯においてがんを発症し、3人に1人はがんが原因で亡くなっています。がんは決して珍しい病気ではなく、誰がかかっても不思議はないのです。ところが治療法はというと、ほとんどのがんについて、確実に治す方法や劇的な特効薬は残念ながら見つかっていません。何らかの自覚症状が出てから検査を受け、がんが見つかった場合、半数以上が進行・手遅れといわれています。がんを克服するには早期発見、治療こそが最良の方法なのです。早期に発見できれば、大きな手術を必要としないので肉体的にも精神的にもダメージが少なく、当然ながら短期の治療、入院で完治すれば経済面や時間の負担も軽く済みます。医療は日々進化し、初期段階のがんなら部位にかかわらず大半が生存率9割以上となってます。がんは「見つかる前に、見つける」ことが大切なのです。

PETによるがんドックについて教えてください。

 「がん診断の切り札」といわれるPET(ペット・陽電子放射断層撮影装置)に、最新鋭のMR、CT、超音波、乳房撮影などを組み合わせた総合画像診断です。ほぼ全身にわたり、数ミリのがんを、まず見逃さない高い診断レベルを実現しています。がんの発見率は通常の人間ドックの約10倍以上ともいわれています。所要時間は苦痛を伴わない検査を約3時間半、結果の仮説明も含めて約5時間です。セカンドオピニオンとしても有効で、転移があるとされていたがん患者さんが実は転移していなかったり、転移の無い早期がんと説明を受けていた多くの人に転移が見つかったりすることもあります。特に早い段階から転移が珍しくない肺がんや乳がんの治療方針決定時にPET検査は有効といえます。最近では、著明な方もPET検査を受けられたりして、道内外に広くPETが認知されるようになってきました。一部条件はありますが、現在健康保険適用となったので、主治医や対応できる医療機関に詳細を尋ねてみてください。

2003年8月27日水曜日

「前立腺肥大症」について

ゲスト/芸術の森泌尿器科 斉藤 誠一 医師

中高年男性が心配する病気の一つに、前立腺肥大症がありますね。

 前立腺肥大症は50歳を過ぎた男性なら、覚悟しておかなければならない病気です。夜トイレに頻繁に起きるようになったり、排尿の勢いが弱くなったり、排尿後、尿がまだ残っている感じがしたり、排尿開始時に息んだりするようになったりというのが初期症状です。初期なら薬で症状が軽くなりますが、いずれは薬も効かなくなります。何度も治療する時間や医療費負担を考えると、早い時期からの手術も検討に値します。医療保険制度に個人差がある米国では、薬による治療は高額になるため、手術を選ぶ人がほとんどです。かつては薬が効かなくなると、電気メスによる内視鏡手術しか選択肢がありませんでしたが、現在はいろいろな治療法があり、患者さんに応じた方法を選ぶことができます。その中の一つに、入院せずに外来で比較的簡単にできる高温度治療がありますが、効果が長続きしないことが問題点です。

新しい治療法としてはどんなものがありますか。

 現在の主流は電気メスで前立腺を削り取り、「土管」の掃除をすることですが、おしっこの管を入れて数日の入院が必要です。また、場合によっては手術中や退院後に大量に出血することもあります。電気メス以外では、ホルミウムレーザーによる手術があります。比較的安全に前立腺を削り取り、入院期間も短縮できる方法です。かつてのレーザーは、やけどをつくり、また、おしっこの管を数日入れておかなければなりませんでした。しかし、ホルミウムレーザーは電気メスと同様に前立腺を出血なく削り取ることができます。特に大きな前立腺には有効です。出血が少ないため、おしっこの管を早く抜くことができ、早期の退院が可能になりました。また、電気メスによる手術と違い、手術中に水が体内に入って気分が悪くなったり、血圧が下がるなどの問題もありません。削り取った前立腺の組織のがん検査も可能です。ただし、手術時間は若干長くかかります。ともかく現在、前立腺肥大症で治療を受けている方で、血液検査でPSA値が高いなどのがんの疑いが無く、頻尿などで自分自身が不便を感じている場合でなければ、焦る必要はありません。主治医とよく話し合い、都合の良い時期に、一番適した治療方法を選択してください。

2003年8月20日水曜日

「医療ピーリング」について

ゲスト/森皮フ科医院 森 尚隆 医師

医療で行うピーリングについて教えてください。

 正常な肌は、表皮の基底層で生まれた表皮細胞が角質層に達し、最終的に垢(あか)となってはがれ落ちる周期が約28日間といわれています。しかし、その周期(ターンオーバー)が乱れると、古い角質が肌の表面に徐々に蓄積され厚くなり、ニキビ跡・角質肥厚・毛穴の詰まりなど、さまざまな皮膚トラブルの原因になります。ピーリングは、古い角質を剥離(はくり)させることによって、新陳代謝を促進し、皮膚が本来持つ修復能力を利用して、新しく柔らかい角質細胞の形成、すなわち肌の生まれ変わりを促す施術です。

ピーリング治療法としてどのようなものがありますか。

 代表的な治療法として「ケミカルピーリング」があります。AHAと呼ばれる酸性の液体を皮膚に塗り、皮膚表面の角質層を傷が残らないようにはがすものです。AHAは、サトウキビ、ヨーグルト、リンゴなど自然界にも存在する酸で、フルーツ酸とも呼ばれています。古い角質を取り除くと、新しい角質細胞が形成されます。この施術を1週間に1度、何度か繰り返すと、ニキビや毛穴の汚れ、肌のくすみなどが改善され、化粧のりが良くなります。定期的に行うことによって、皮膚のターンオーバーが正常になり、毛穴が詰まりにくくトラブルの少ない肌に改善されます。また、ニキビに対しても大変有効な治療法です。ほかに酸を使用しない新しいタイプのピーリングで、機械を使用する「ダイヤモンドトーン」という治療法もあります。古い角質や毛穴の黒ずみの除去、ニキビ跡の修復、角質のトラブルによるシミなどに効果を発揮します。ダイヤモンドの粒子が付いたバーで皮膚をなぞり、吸引しながら肌表面の角質を削っていくものです。痛みもなく、ほとんどの肌タイプに対応できます。さらに「イオン導入」という治療を併用するとより効果が期待できます。肌の奥まで届きにくい、ビタミンCやプラセンタエキスなどの有効成分を微弱電流でイオン化し、真皮層まで浸透させます。ご紹介した治療は保険適用外なので、専門医によく相談してください。

2003年8月13日水曜日

「肥満」について

ゲスト/つちだ消化器循環器内科 土田 敏之 医師

肥満の問題点について教えてください。

 肥満はさまざまな生活習慣病の原因になります。肥満に合併する健康障害として、糖尿病、高脂血症、高血圧、痛風、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、睡眠時無呼吸症候群、脂肪肝、膝(ひざ)関節症・腰痛症、月経異常などが挙げられます。健康に過ごすためには、適正な体重を維持することが大切です。肥満症の人には、そのようになる原因があります。まず挙げられるのが、加齢とともに若いころほどのエネルギーを必要としなくなっているのに以前と同様の食事をしていること。中年以降急激に太る人が多いのはこのためです。外食や付き合い、接待などでカロリーの高い食事をしている。ストレス解消のための過食も肥満の要因です。また、食事の習慣として、早食い、つまみ食い、ドカ食いなどは食べ過ぎの原因になります。夜遅くの食事、おやつやアルコールの取り過ぎ、もったいないと残り物を食べてしまう、運動不足なども肥満症の人に多くみられます。さらに、親や家族が太っている場合は、太りやすい体質や習慣を受け継いでいると考えられます。

上手な肥満解消の方法を教えてください。

 「1カ月で10kgやせる」というような、極端なダイエットは体に負担を掛け、健康を害したり、大幅なリバウンドを招くことにもなりかねません。健康的に体重を減らそうと思ったら、以下の3つの大原則を頭に入れてください。第1に、摂取カロリーを消費カロリーより減らす。入ってくるカロリーが出て行くカロリーを下回れば、人間の体は体脂肪を分解燃焼して補てんしようとします。1日2500kcal取っていた人が、1800kcalに減らせば、700kcalの体脂肪が燃焼され、これを10日続ければ7000kcal、約1kgの減量になります。次に、運動だけでやせるのはまず不可能と考えてください。体重を減らすほどの運動量は、仮にできたとしても継続することが難しいのです。そして最後に、以上2点から考えて、生活習慣を見直すことがダイエットの秘訣であるとわかります。腹八分目以下の食事量に徹し、階段を利用するなど日常的に体を動かすことを心掛けることです。

2003年8月6日水曜日

「大腿(たい)骨頚(けい)部骨折」について

ゲスト/紺野整形外科クリニック 紺野拓志 医師

大腿骨頚部骨折について教えてください。

 大腿骨が骨盤につながる部位が大腿骨頚部で、この部分を骨折するのは、ほとんどが高齢者です。男性にも起こりますが、特に女性が多く、その背景には骨粗しょう症によって骨がもろく折れやすくなっていることが挙げられます。高齢者が大腿骨頚部を骨折し、それを契機に寝たきりになる例も多く、大きな問題となっています。骨折のきっかけはほとんどが転倒です。転ぶなどして、大腿骨頚部に痛みを感じたら、すぐに専門医を受診してください。大腿骨頚部骨折であれば、できる限り早く手術を受けてください。可能であれば、骨折した当日に手術を受けることをお勧めします。手術をしないまま時間が経てば経つほど、治癒に時間がかかり、寝たきりになってしまう確率も高くなります。手術自体は決して難しいものではなく、患者の負担も比較的軽く済みます。術後、麻酔が覚めたら自力でトイレまで行けるように努力してください。そして、早い時期に積極的にリハビリに取り組みましょう。「自分で歩く」という強い意志が、寝たきりを回避することにつながります。順調であれば、1~2カ月で退院することができます。

大腿骨頚部骨折を防ぐにはどうしたら良いですか。

 とにかく転んだり、つまずかないことが一番の予防です。転倒する場所として、足場の悪い野外を想像しがちですが、実際には家の中の転倒で骨折することが多いのです。掃除機のコードや座布団につまずいたり、新聞紙や玄関マットで滑ったり、ふろ場で転ぶなどして、骨折する例が多く報告されています。普段から家の中の整理整頓を心掛け、できれば手すりを付けたり段差を減らすようにしましょう。風邪などで体調を崩したときは、家の中でも慎重に歩くようにしましょう。また、普段からカルシウムとビタミン豊富な食事を心掛け、適度な運動をして、骨粗しょう症を防ぐことも大切です。関節に痛みのある人は、水中ウオーキングのような負担の掛からない運動がいいでしょう。積極的に動くことによって筋力が付けば、骨折の予防にもなります。

2003年7月23日水曜日

「子どもと成人の矯正治療」について

ゲスト/北大前矯正歯科クリニック 工藤 章修 歯科医師

子どもと成人の矯正治療に違いはありますか。

 まず、子どもの矯正治療ですが、乳歯から永久歯に生え替わる7歳から14、5歳くらいまでは、顎(あご)の発育をコントロールし、歯のバランスを整えるのに一生で最も適している時期です。歯並びだけではなく、顎自体を広げたり、前に移動したりと、この時期ならではの治療が可能です。しかし、一方で期間が長く、どのように変化しているか、また、最終的にはどのようになるのかが見えにくく、当事者であるお子さんはもちろん、保護者が治療期間中に不安を感じることがあります。著しい変化が目に見えない分、治療を中断してしまう人もいます。成人の矯正治療の利点は、すでに完成した歯並びの「どこをどう治したい」という意思が、患者さん側にはっきりあることです。例えば、出歯と呼ばれる上顎(じょうがく)前突の場合、歯だけを引っ込めたいのか、歯茎ごと引っ込めたいのか、患者さんの頭の中にはすでに理想となった形があるはずです。医師もそれを尊重し、具体的な目標に向かって治療計画を立てることができます。ただ、年齢が高くなるに従って歯が欠損し、さし歯(継続歯)やブリッジがすでに入っていることがあり、矯正治療のみでは治療に限界があるため、ほかの歯科治療と協力しながらの治療(オーラルリハビリテーション)が必要になることもあります。

上手に矯正治療を受けるためにどうしたらいいですか。

 まず、子どもの場合ですが、「見えない」ことは不安につながります。3~6カ月ごとに医師とじっくり話し合い、説明を受ける機会を持ってください。本人はもちろん保護者も医師を「友人」と考えて何でも聞いてください。これは意思の疎通を図るのはもちろんですが、患者さんの背景も含めた状態を知ったほうが、より効果的な治療を行えるからです。成人の場合は、治療に関する要望を具体的に医師に伝えてください。治療上の大事なポイントになることがしばしばあります。子ども、成人どちらにもいえることですが、矯正治療期間中に転居や進学で通院できなくなる場合は、主治医に相談し、転居先の信頼できる専門医を紹介してもらうことをお勧めします。無理に治療を短縮することは好ましくありません。

2003年7月16日水曜日

「胃食道逆流症」について

ゲスト/にしはら内科クリニック 笹村 崇子 医師

胃食道逆流症について教えてください。

 この病気は、酸性度の高い胃の内容物が食道に逆流することによって起こります。典型的な症状は、胸焼け、口の中に酸っぱい液や苦い液が上がってくる、げっぷなどです。ほかに、つかえ感、胸痛、長引くせき、のどの違和感などさまざまな症状がみられます。自覚症状が無いのに食道炎を起こしていることや、逆に症状があるのに内視鏡では食道炎がみられないこともあり、どちらも胃食道逆流症に含まれます。逆流により食道に炎症がみられるものを逆流性食道炎といいます。食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋という弁のような役割をする筋肉があり、普段は閉じていて飲み込む時に開きます。この働きなど、胃からの逆流を防ぐいくつかの仕組みが崩れ、食事と無関係に食道と胃のつなぎ目が緩んだ状態になったり、逆流した内容物を胃に戻す働きが低下したり、食べ過ぎなどにより胃の圧力が高まることにより起こります。

治療法や生活上の注意点について教えてください。

 この病態は、肉や脂肪分の摂取が多い人や高齢者、腹圧が掛かりやすい人(肥満、妊婦、背中が曲がっている人など)、食道裂孔(こう)ヘルニアのある人、胃の手術をした人などがなりやすく、最近増加しています。検査は内視鏡で直接食道を観察して診断するのが一般的で、ほかに食道内PHモニタリングや食道内圧検査などを行うこともあります。治療は、胃酸の分泌を抑える薬、特にプロトンポンプ阻害薬(PPI)が効果的です。ほかに消化管運動機能改善薬や粘膜保護薬などがあります。服薬をやめると再発することが多いため、医師の指示に従って胃酸を抑える薬を服用し続けることが大切です。再発を繰り返す重症例などは、外科手術が必要なこともあります。日常生活では、脂肪分の多い食事や刺激物、甘い物、コーヒー、炭酸飲料、アルコールなど胸焼けを起こしやすいものは控えます。過食は避け腹八分とし、食後しばらくは横にならず、また就寝前の食事は避けることが重要です。就寝時は上半身を高くして休むと効果的です。前かがみの姿勢を続けたり、きついガードルなども避けましょう。症状に思い当たる人は、一度専門医を受診することをお勧めします。

2003年7月9日水曜日

「若年からの骨粗しょう症予防」について

ゲスト/草薙レディースクリニック 草薙 鉄也 医師

骨粗しょう症について教えてください。

 骨粗しょう症とは、大根に「す」が入ったような、骨がスカスカの状態になることをいいます。症状としては、腰痛、背痛などの疼(とう)痛、身長が低くなる、背骨の変形のほか、骨がもろくなるため、転ぶ、ぶつけるなど、ちょっとした衝撃で骨折につながります。老年になってからの骨折はそのまま寝たきりになったり、痴呆につながる恐れがあります。骨の形成と女性ホルモンには深い関係があり、更年期になってホルモンの分泌量が減ると、骨を溶かす破骨細胞が活発に働くようになります。さらに、カルシウムは女性ホルモンやビタミンDの助けがないと体内に吸収されないので、徐々に骨の中のカルシウム量が減って、骨粗しょう症が進行します。

どうすれば骨粗しょう症を予防できますか。

 骨粗しょう症は「お年寄りの病気」と考えている人が多いと思います。しかし、実際には若いうちからの偏った食事や極端なダイエット、運動不足など、蓄積された生活習慣による弊害が原因となることが多いのです。また、アレルギーやぜんそくなどの患者に処方される副腎ステロイド剤の使用によっても、骨粗しょう症になることがわかってきました。年を取って症状が出てからでは手遅れです。若いうちから、骨粗しょう症予防を心がけましょう。骨密度は、正常値が80%以上、骨量減少(骨粗しょう症予備群)が79~70%、69%以下が骨粗しょう症になります。平均で30~65歳までに3割程度は減少しますから、30代では100%の骨密度がないと、将来骨粗しょう症になる可能性が大きいということになります。予防策として、20代、30代、40代、それから大病をした後・閉経期に骨密度を検査してください。腕で測っても肝心の背骨や大腿(たい)骨の骨密度はわかりません。必ず背骨、大腿(たい)骨で計測しましょう。骨密度値が平均以下であれば、意識的にカルシウム、ビタミンDを摂取し、適度な運動を心掛けて、骨量増加を目指します。また、閉経時にはホルモンの激変で大きな影響が出ますから、専門医を受診し、必要なら症状に合った薬を服用するのも有効です。

2003年7月2日水曜日

「急増する前立腺がん」について

ゲスト/元町泌尿器科 西村 昌宏 医師

前立腺がんについて教えてください。

 前立腺は男性の生殖器官の一部で、膀胱(ぼうこう)のほぼ真下にあり、クルミ大で尿道を取り囲んでいます。前立腺がんは、近年、日本において急カーブで患者数が増し、死亡数も増えています。原因は高齢人口の増加が挙げられます。前立腺がんは、9割以上が60歳以上の人で占められている高齢者のがんなのです。また、日本人の食生活が、動物性脂肪、動物性タンパク質の多い欧米型に移行していることも、患者数増加の一因として挙げられます。前立腺がんの大きな特徴として初期の症状はほとんどなく、自覚症状が出たときにはかなり進行していたり、骨などに転移していたりというケースがあります。一方で進行が遅く、薬物治療の効果が高いがんであるという側面もあります。検診などで積極的に検査を受け、早期に発見すれば、いたずらに恐れる必要はありません。

具体的な症状や検査、治療法について教えてください。

 前立腺の疾患としては、良性の前立腺肥大症がよく知られていますが、前立腺がんとはまったく違う疾患です。しかし、排尿回数が増える、下腹部の不快感、尿が出にくい、尿が細い、残尿感があるなどの、初期症状がほとんど同じなため、「前立腺肥大症だろう」と誤った判断をし、受診が遅れてしまう場合があります。50歳を過ぎて排尿に勢いが無いなど変化が出てきたら、前立腺がんの検査を受けることをお勧めします。検査は直腸から前立腺を触診したり、超音波、MRI(磁気共鳴診断装置)などの画像診断が有効ですが、それ以前に血液検査でスクリーニングが可能です。採血し前立腺特異抗原(PSA)を測定し、4.0ng/ml以下は正常で、4.0~10.0 ng/mlだと前立腺がんが疑われます。ただし、この数値は前立腺肥大症でも出る可能性があります。10.0 ng/mlを超えた場合は、前立腺がんの可能性が高くなりますから、前立腺の細胞を採取し、病理検査をする必要があります。この場合は3日ほどの入院が必要になります。治療は進行状態や年齢などによって、薬物、放射線、手術のいずれか、あるいは組み合わせて行います。

2003年6月25日水曜日

「高血圧」について

ゲスト/秀愛会内科・消化器化クリニック 高梨 良秀 医師

高血圧について教えてください。

 血圧とは、血液が血管の壁に与える圧力のことをいい、心臓が収縮したとき動脈に掛かる血圧を最大血圧、心臓が拡張したときに動脈に掛かる血圧を最小血圧といいます。最大・最小血圧の一方でも正常値より高ければ高血圧と判断されます。高血圧状態が長く続くと血管や心臓に負担が掛かり、動脈硬化が進行し、脳出血、脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞、大動脈瘤(りゅう)破裂、腎不全など命にかかわる合併症を引き起こすことになります。高血圧が恐ろしいのは、自覚症状に乏しく、中にはまったく出ない方がいることです。これといった症状が無いまま、ある日突然命を奪われるという危険があるのです。高血圧の原因は、遺伝的要素のほか、塩分の取り過ぎ、肥満、ストレスなど生活習慣が大いに関係しています。たかが高血圧と考えず、日常的な健康管理に気を配り、合併症を防ぐ必要があります。

高血圧や合併症は、どのように防げばいいのですか。

 高血圧の治療としては、早期であれば食事や運動など生活習慣を改めることで改善することがあります。それでも血圧が下がらなければ、投薬による治療が加わります。定期的に受診し、医師の指示に従って処方してもらってください。薬の減量、中止を自己判断で行うのは危険です。何より大切なのが、自身の血圧を正確に知ることです。日本人の場合、上が120~130、下が80以下が血圧の理想的な値と見なされています。血圧はさまざまな要因で変動し、病院へ行って外来で血圧を測っても、本来の血圧より高めに出てしまうことがあります。正確な血圧を知るためには、家庭での血圧測定が参考になります。さまざまな血圧計が販売されていますが、上腕で測定するものがより正確です。毎日2回、決まった時間に測定し、測定前の最低5分はできるだけ安静にしましょう。測定値は記録し、かかりつけの医師に見せ、治療計画の判断材料にします。さらに正確な血圧を計る24時間血圧計もあります。1日を通して血圧の変動をモニターするので、行動と血圧の関係、薬の効果などを詳しく知ることができます。血圧が心配な人は、1度測定してみるとよいでしょう。

2003年6月18日水曜日

「PMTC」について

ゲスト/宇治矯正歯科クリニック 宇治 正光 歯科医師

最近よく耳にするPMTCについて教えて下さい。

 「プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング」の略で、特別な技術を持った歯科医師や歯科衛生士が、専用の器具や機械でフッ素入りの歯磨き剤ペーストを用いて、歯と歯の間、歯と歯茎の間など、自分自身の手では十分に磨けないところまで、徹底的にきれいにすることです。歯こうや歯石はもちろん、お茶やタバコによる着色を落とし、治療済みの詰め物が変色していれば詰め直しを行うので、終了後は見違えるほど美しい歯になります。また、今までに経験したことのない「ツルツルとした歯」を実感できます。歯の表面がツルツルになることにより汚れづらくなります。さらに、クリーニング後はフッ素によるコーティングを行うので、歯こうや歯石が付きにくくなり、虫歯や歯周病を予防することができます。

どのような場合、PMTCを利用すればいいのですか。

 毎日、隅々まできちんと歯の手入れを行っているつもりなのに、虫歯ができたり、歯周病になってしまった、という経験は誰にでもあると思います。家庭でのケアでは、どうしても行き届かない個所があり、口腔(こうくう)内を完ぺきに清潔に保つことは不可能です。ホームケアの努力を無駄にしないためにも、口腔内の検診を兼ねて年に1回程度のPMTCをお勧めします。特に、自分自身で上手に歯磨きを行えない子どもや、自身での口腔内健康管理が難しい人、過去に虫歯や歯周病になり治療を終えた人、1日10本以上タバコを吸う人、口の中をすっきりとさせたい人、より美しく健康的でありたい人、今まで予防処置や歯磨き指導を受けたことが無い人には、ぜひ経験してもらいたいと思います。また、結婚式を前に美しい口元を演出するために、ホワイトニングよりも短時間で済むPMTCを受ける人も多くいます。所要時間は1時間程度で、痛みや苦痛はほとんどありません。PMTCを行うには、特別な技術と器具が必要ですから、事前に行っているか、また健康保険適用外の治療になるので料金などを、歯科医に問い合わせることをお勧めします。

2003年6月12日木曜日

「慢性肝炎」について

ゲスト/やまうち内科クリニック 山内雅夫 医師

慢性肝炎について教えて下さい。

 肝炎ウイルスの感染が持続し、肝機能異常が6カ月以上続く状態です。進展すると肝硬変に移行し、やがて高率で肝ガンを合併します。日本ではおよそ20%がB型肝炎ウイルス、約70%がC型肝炎ウイルスによるものです。B型慢性肝炎のほとんどは出産時あるいは乳児期の母子感染によるものです。乳児は免疫が無いためウイルスが体内に残り、無症候性キャリアとなりますが、免疫機構が発達する思春期になるとウイルスの存在を認識し、ウイルスを排除しようとしてウイルスを含む肝細胞まで攻撃してしまう~これが肝炎の原因です。このようにして発症した肝炎患者の約90%はやがて治癒しますが、残りの約10%は肝炎が持続し、慢性肝炎となります。輸血や性行為などによって成人がB型肝炎に罹患(りかん)した場合には、一過性の急性肝炎を起こしますが慢性化しません。なお現在、日本ではB型肝炎の母親から生まれた子どもに対しては予防接種がなされており、やがてB型慢性肝炎はほとんど無くなると考えられています。C型肝炎はB型肝炎と同様に血液を介して感染しますが、感染力は弱く、母子感染や性行為で移ることはまれです。過去に行われていた予防接種の注射針の使い回しや輸血などが主な原因です。C型肝炎ウイルスに感染すると、まず急性肝炎を発症しますが、その後高い割合(約70%)で慢性肝炎へ進行することが特徴です。

症状、治療法について教えてください。

 初期にはほとんど症状が無く、慢性肝炎がかなり進行してから、疲れやすい、食欲不振などの自覚症状が出る程度です。血液検査の結果、GOT(AST)、GPT(ALT)の値が高ければ肝臓障害があると見なされ、原因を調べます。B型慢性肝炎ではHBs抗原、HBe抗原など、C型慢性肝炎ではHCV抗体、HCV-RNAが陽性となります。一部のC型慢性肝炎にはインターフェロンが有効ですが、発熱、血小板減少、食欲不振、うつ状態など強い副作用が出る場合があります。最近では抗ウイルス薬のリバビリンを併用することで、より高い治療効果が期待されています。B型慢性肝炎にはインターフェロンの効果は低いのですが、経口抗ウイルス薬のラミブジンの有効性が注目されています。また強力ミノファーゲンC、ウルソなどの肝庇護剤や漢方薬も使われます。いずれにしてもまだ、慢性肝炎の治療法は確立していないというのが実情です。しかし、完治しない場合でも、慢性肝炎の進行を遅らせ、肝硬変への進展、肝がん発生の防止のため治療を継続し、禁酒を守るなど、日常生活の中で注意を払いながら長く付き合っていくことが必要です。

2003年6月4日水曜日

「腰部脊(せき)柱管狭窄(きょうさく)症」について

ゲスト/つつみ整形外科クリニック 堤 正樹 医師

腰部脊柱管狭窄症について教えてください。

 腰部脊柱管狭窄症の疾患になると、歩行時に腰やでん部から足にかけて、引きつるようなしびれと痛みを感じます。そのまま歩き続けると症状がひどくなりますが、座るなどして少し休むと痛みが去ります。歩き出してしばらくすると、また痛みがぶり返すというのが典型的な症状です。これを間歇性跛行(かんけつせいはこう)といいます。足にしびれを感じるため、腰部の疾患と思わない人もいるのですが、原因は腰にあります。50歳代以降の人に多く、放っておくとだんだん痛みが強くなることもあり、歩ける距離が短くなってきます。背骨の中心にある脊柱管と呼ばれる神経の通る孔が、骨の変形などによって狭くなり、脊柱管内の神経を圧迫するのが原因です。まれに先天性の人もいますが、ほとんどが加齢によるものです。男性、女性とも同じ程度に発症します。似た症状を示すものとして、末梢に血液が流れず強い痛みを生じる下肢の閉塞(へいそく)性動脈硬化症があります。閉塞性動脈硬化症の場合、専門医に正確に診断してもらう必要があります。

予防法、治療法を教えてください。

 残念ながら自分で予防することはできません。腰や足の痛みは日常生活に大きく影響します。放っておいても自然に治癒するものではないので、なるべく早くに整形外科の専門医を受診してください。治療方法としては、ビタミン剤や血行改善剤などの内服、キセノン光線などの理学療法があります。また、前傾姿勢をとると痛みが軽減するため、前傾の姿勢に固定する特殊なコルセットを装着する場合もあります。これらの治療でも改善されない場合は外科手術となります。神経を圧迫している骨や靭帯(じんたい)などを除去して、ズレを修復し、孔を広げる手術を行います。十分に経験を積んだ専門医による脊椎(せきつい)手術は危険が少なく、入院期間も2~4週間で済みます。痛みが無くなると日常生活は大変楽になります。腰痛、足のしびれに悩んでいる人は、我慢せず、専門医に相談することをお勧めします。

2003年5月28日水曜日

「花粉症とせき」について

ゲスト/大道内科・呼吸器科クリニック 大道光秀 医師

花粉症とそれに続くせきについて教えてください

 スギ花粉が主な原因となる本州・四国・九州の花粉症は終息しましたが、北海道の「花粉症」は今がシーズンです。本道での今ごろの花粉症の原因は、主にシラカバ、ハンノキによるもので、花を付ける4月下旬からがシーズンです。さらに、カモガヤなどの牧草やヨモギによる花粉症が9月ごろまで続きます。主な症状は、しつこい鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどで、アレルギー体質の人ほど罹患(りかん)しやすいといえます。今まで花粉症ではなかった人がストレスや疲れ、寝不足などが引き金となって発症することもあります。シラカバ花粉症の人の中には、リンゴやモモ、サクランボやキウイなどの果物を摂取すると、口の中がかゆくなったり唇が腫れたり、のどがかゆくなったりする果物アレルギーの人も見られるので、注意が必要です。アレルギーを起こす原因物質は、血液検査で比較的容易にわかるので、一度検査を受けて、アレルギー物質を可能な限り避けるようにします。また、花粉症の体質の人では、感冒をきっかけとしてせきやぜんそく発作を起こすことがあります。この場合、夜間や早朝に多いせきが特徴です。感冒が長引いていると思って、風邪薬だけでごまかしていると、せきはさらにひどくなり、夜も眠れないほどのせきになります。

具体的な治療、予防方法について教えてください。

 根本的に治すなら、時間を掛けて体質を改善していくしかありません。今現在の症状を緩和するには、抗アレルギー剤の服用、点鼻薬、点眼薬などがあります。毎年のように発症する人は、原因の花粉が飛び始める2週間前くらいから、予防的に抗アレルギー剤を内服すると、シーズン中の症状が軽減されます。症状が出てしまってからでも、なるべく早くに服用すると重くならないので、早期の受診をお勧めします。予防法としては、花粉の飛散量が多い晴れた風の強い日は外出を控えたり、外出時にマスクを装着する。外出先から戻ったら、家に入る前に衣類や髪、持ち物に付いた花粉を払い、手洗い、うがいを行うといった基本的なことが効果的です。在宅中も、晴れた日には窓を開けない、掃除機をこまめにかける、フィルター付き空気清浄機の利用などで、花粉の影響を少なくすることができます。またせきのひどい人やゼイゼイする人は早めに呼吸器専門医を受診し、胸部写真をチェックしたり、肺機能検査を受けてぜんそくが無いかどうか調べ、適した治療を受けなければなりません。

2003年5月21日水曜日

「さまざまな痛みの治療法」について

ゲスト/十善クリニック 水柿 功 医師

どのような痛みでペインクリニックを受診する人が多いですか。

 一番多いのは腰痛です。ぎっくり腰と呼ばれる急性腰痛症、腰椎(ようつい)椎間板(ついかんばん)ヘルニア、脊(せき)柱管狭窄(きょうさく)症、腰椎手術後腰痛症など、腰の痛みに苦しんでいる人が多くいます。痛みが生じると血行が悪くなり、交感神経が緊張し発痛物質が産生され、さらなる痛みに苦しむことになります。「いろいろな治療を受けたが痛みが取れない」「年だから腰が痛いのは当たり前」とあきらめてしまう人もいます。しかし、出歩けなくなったり、気持ちが落ち込んだり、痛みは日常生活に大きな影響を与えます。神経ブロックの治療効果を知り、現在の痛みを取ることができるならと、ペインクリニックを受診する方が多いです。また、帯状疱疹(たいじょうほうしん)後の神経痛を訴える方も多いです。帯状疱疹は水痘(すいとう)ウィルスが原因です。高齢者やストレスや過労などで免疫機能が低下している人に多く発症します。激痛を伴うのが大きな特徴で、皮膚表面上の症状は改善されても、痛みが残る場合があります。

治療法について教えてください。

 ペインクリニックでは、神経ブロックといって、神経に局所麻酔薬を作用させ、痛みを遮断します。急性腰痛症や腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などの治療には、硬膜外ブロックを行います。脊髄(せきずい)を含む硬い膜の外側に局所麻酔薬を注入します。痛みを取ることにより、血液が循環し、痛みの発痛物質の産生が抑制され、筋肉の緊張が緩和し、組織の修復を促します。帯状疱疹の場合は、早期に神経ブロックを行えば、帯状疱疹後神経痛に悩まされることはありません。帯状疱疹後神経痛になってからでは、完治が難しくなります。初期の皮膚症状が出た時点で、ぜひ神経ブロック療法を受けることをお勧めします。1度の治療で改善することもあれば、何度か治療することもあります。麻酔注射ということで躊躇する人もいますが、経験豊富な専門医であればまず危険はありません。痛みに悩んでいる人は、1度ペインクリニックを受診することをぜひご検討ください。

2003年5月14日水曜日

「大人のニキビ」について

ゲスト/宮の森スキンケア診療室 上林 淑人 医師

ニキビについて教えてください。

 正式には尋常性座瘡(じんじょうせいざそう)といい、アクネ菌の感染が関係する化膿性の皮膚疾患です。中学・高校生のニキビはホルモンの影響を多く受けています。この時期のニキビは、完全に無くそうとは思わず、少しでも減らし悪化させないことを目標にすべきです。それには、薬を塗るだけでなく、バランスのとれた食生活、規則正しい生活などが大切です。問題は大人のニキビです。中学・高校生のニキビのように原因が単純ではありません。ホルモンのバランスに加え、生活習慣、ストレス、疲労などが関係し、塗り薬だけでは治らない場合がほとんどです。悪化すると痛みやかゆみを伴い、またニキビ跡が肌にデコボコを作ったり、赤く残ったり、特に女性にとっては大きな悩みの一つになっています。さらに、ニキビを隠そうとファンデーションを厚く塗ることによって、悪化させるという悪循環に陥っている人も多いのです。

大人のニキビの治療法と予防について教えてください。

 経過を見ながらその人に合った治療法を見つけていかなくてはなりません。外用剤の選択、抗生物質やビタミン剤の内服など、原因や症状によって治療に違いが出ます。またニキビが出やすい体質を改善する目的で、漢方薬が効果的なことが多くあります。ニキビのタイプ、体力や体調、血の巡り、ホルモンバランスの乱れなど、総合的に判断し、その人に合った漢方薬を処方します。日常生活の中で、ニキビ予防を心掛けることも大切です。和食を中心にする、ストレスを貯(た)めず、お酒の飲み過ぎ、過労、寝不足を避けるなど、生活習慣を改善していけば、ニキビの予防につながります。また、正しい洗顔方法がニキビの予防と改善に重要です。クレンジングしてから洗顔するダブル洗顔を心掛け、洗い過ぎによる皮脂の落とし過ぎを避け、少し突っ張るくらいの洗い上がりを目標にしましょう。乳液、クリームなどの油分を多く含んだ化粧品は、使い過ぎるとニキビを悪化させることがありますので注意しましょう。ニキビ跡を残さないためには、早め早めに治すことが肝心ですので、気になったら専門医を訪ねてください。

2003年5月7日水曜日

「動脈硬化症と糖尿病」について

ゲスト/青木内科クリニック 青木伸 医師

動脈硬化症について教えてください。

 動脈は本来弾力性があるものですが、動脈壁に脂肪などが沈着したり、動脈壁の筋肉に弾力の無い繊維が増えたりすると硬くなります。血管の内側に粥(じゅく)状の塊(かたまり)ができ、血管が狭くなり本来の働きが悪くなります。また、塊を覆う繊維性皮膜が破れると、中の粥状のものが血管に流れ出て、血栓となって血液の流れを止めてしまいます。脳の血管が詰(つ)まると脳梗塞(こうそく)、心臓では心筋梗塞、足では壊疽(えそ)になります。これらは生命に関わる重大な病気ですから、動脈硬化症は早期に診断、治療を行う必要があります。動脈硬化症による重篤な症状を避けるには、粥状の内容物を減らすことと、内容物を覆っている繊維性皮膜を丈夫にすることが肝心です。

予防方法を教えてください。

 動脈硬化症は、主に生活習慣病の合併症として現れます。危険因子である糖尿病、高脂血症、高血圧症をきちんと治療し、管理していくことが大切です。日本には非常に多くの糖尿病患者、そして予備軍がいます。かなり悪化するまで自覚症状が無いため、健康診断などで「血糖値が高い」といわれても放置している人が多いのですが、動脈硬化症から、脳梗塞、心筋梗塞に至ることや、高血糖が原因で数年後から十数年後に腎不全(透析)、失明など重篤な症状に発展する場合があります。手遅れになる前に、専門医の治療を受けてください。治療は主に投薬と日常生活の中での数値管理です。過去1~2カ月間の平均血糖値を表すHbA1cの正常値は5.8%以下ですが、糖尿病患者の場合、この値を6.5%以下にしておくと血管の余病は出ません。また、糖尿病患者の約半数は高脂血症や高血圧症を合併しています。コレステロール値や中性脂肪値などにも注意を払うことが必要です。定期的な通院を続け、適切な投薬と数値管理を行えば、日常生活には支障ありません。生活習慣病は遺伝的要素も強く、家族に糖尿病や高脂血症の人がいる場合は、注意が必要です。子どもや若者も例外ではありません。また、欧米型の肉や脂肪が多い食事を、野菜中心の和食にするなど、日常生活を見直してみてください。

2003年4月23日水曜日

「新社会人のための口腔(こうくう)内ケア」について

ゲスト/庄内歯科医院 庄内 淳能 歯科医師

新社会人へ口腔内ケアのアドバイスを

 初めて誰かと会ったとき、会話をしながらどこを見ているのでしょうか。たいていの場合、目か口元を見つめていませんか。口元は、第一印象を決めるときに、目と同様に大切な役割を担っているのです。新社会人には、身だしなみとして、口元のケアを真剣に考えてもらいたいと思います。反対咬合(こうごう)など咬(か)み合わせや歯並びが悪い、歯の色が黒や黄色に変色している、口臭がするなどは、相手に対して悪い印象を与えます。まず、歯の色については、前歯が変色していないか、茶しぶやタバコのヤニによって変色していないか、自分でマメにチェックをして、気になる場合は専門医でホワイトニングの相談をしましょう。口臭は、匂(にお)いに本人が気付かないことも多いのですが、歯周病や虫歯が原因の場合もあります。歯科医の検診を積極的に受けて原因を断ち、その後は「食事をしたら、タバコを吸ったらすぐ磨く」を実践するといいでしょう。

咬み合わせや歯並びは、すぐには治りませんね

 そうです。矯正が必要になります。成人になってからでも矯正自体は問題ないのですが、目立つから嫌だという方が多いのです。しかし、口元が印象を決めるのであれば、放っておくことは一生の損にもなりかねません。欧米では歯並びの悪い人は出世できないとの見方もあるようです。また、咬み合わせや歯並びが悪いことによって、全身のバランスが悪くなり疲れやすくなったり、肩こりや頭痛を誘発することもあります。内側からの矯正など目立たない方法もあるので、一度専門医に相談してください。同時に、一般社会が、矯正具を付けた人を特別視することなく受け入れることも肝心です。経営者や管理職の立場の方は、「人前に出るなら矯正具はだめ」という考えを捨てていただきたいと思います。今年高校、大学に進学した人は、3年後、4年後の進学・就職活動を見据え、矯正を始めると理想的です。矯正期間は3~4年程度なので、歯並びが美しくなったところで、自信を持って新たな生活に挑戦できるはずです。

2003年4月16日水曜日

「虚血性心疾患と内臓肥満症候群」について

ゲスト/朝日内科クリニック 冨田 文 医師

虚血性心疾患と肥満の関係について教えてください。

 現在日本では、循環器疾患、特に狭心症、心筋梗塞(こうそく)などの虚血性心疾患が増加しており、大きな問題になっています。増加した要因として高齢化も挙げられますが、日本の昔ながらの食生活・ライフスタイルが崩れ、欧米化したことが大きく影響しています。虚血性心疾患の危険因子として、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙などが知られています。一つ一つの危険因子は軽度であっても、それが複数重なることによって虚血性心疾患を発症する危険性が非常に高くなります。これら糖尿病や高血圧、高脂血症などの発症に、肥満は重要で中心的な役割を担っています。肥満に伴う合併症の発症には、脂肪の量そのものよりも付き方の違い、すなわち脂肪分布がより密接に関連しています。肥満は、腹腔内の腸間膜脂肪を主とする内臓脂肪の蓄積が顕著な「内臓脂肪型肥満」と、皮下脂肪が多い「皮下脂肪型肥満」に分類できます。「内臓脂肪型肥満」に糖尿病、高血圧、高脂血症などの合併症が高い確率で現れることが明らかになっています。また、見た目が肥満ではなくても内臓脂肪の蓄積がさまざまな代謝異常や高血圧、虚血性心疾患の発症に密接に関連することがわかっています。このような内臓脂肪の蓄積を成因基盤として糖尿病、高血圧、高脂血症など複数の危険因子が合併している病態は「内臓脂肪症候群」と呼ばれ、虚血性心疾患の高リスク集団と考えられています。

内臓脂肪症候群の原因は何でしょうか。

 「内臓脂肪症候群」の生活習慣上の特徴として、「過食で間食が多い」「運動不足」「喫煙」などが挙げられています。肥満の人でも内臓脂肪が正常な人たちは、日常の身体活動が活発であることが明らかになっており、運動不足が内臓脂肪蓄積の大きな要因と考えられます。内臓脂肪蓄積の正確な判断には腹部CTやMRI検査による脂肪分布の評価が必要ですが、参考値として、「ウエスト÷ヒップ」の値が、男性で1.0以上、女性で0.8以上なら、内臓型肥満の可能性が高くなりますので注意してください。

「セルライト」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森 尚隆 医師

最近よく耳にするセルライトとは何でしょうか。
そのメカニズムを教えてください。

 女性の大腿(たい)部、でん部などに見られる、皮膚の表面がみかんの皮のようなデコボコになっている肌のことで、オレンジピールスキンとも呼ばれています。ほとんどの女性に潜在的に存在するといわれています。通常、脂肪細胞は血管に隣接し、血液が運ぶ栄養分などを取りこんで、エネルギーとして蓄えています。しかし、運動不足、食べ過ぎ、加齢による代謝低下、冷え、むくみなど、さまざまな要因により、血行やリンパの流れが悪くなり脂肪細胞が血管から分離し、孤立して肥大化していきます。これがセルライトです。語源は70年代の初めにフランス語で細胞を表す「セルリ」に「鉱物」を表す接尾語が付いた造語で、当初は美容面での注目度が高かったのですが、80年代になってからようやく医学的に研究が始まったといわれています。セルライトのできやすい部分は、基本的に皮下脂肪が多く、血行の悪くなりやすい部分です。ヒップ、ウエスト、お腹、ふともも、二の腕などですが、特にできやすいのがヒップからふとももにかけてです。このセルライトは肥満とは異なり、ぽっちゃり型の人からやせ型の人にも見られ、ダイエットやエクササイズをしても、肥大化してしまった脂肪を代謝することが難しいものだといわれています。

セルライトの除去方法はありますか。

 除去方法としては、高周波の熱エネルギーを利用した医療温熱機器、超音波、ダイオードレーザーによる治療、マッサージなどが挙げられます。中でも効果がはっきりしているといわれるのは、米カリフォルニア大学で研究されたボディーデザイン医療機器・エンダモロジーです。学会などの研究報告や臨床データで効果が期待されると多くの発表がありました。FDA(米国食品医薬局)の認可も受けています。セルライトは、欧米では肥満や血行障害など、健康上良くない兆候として医学的な面から注目されていますが、国内においては、まだあまり認識されていないのが現状です。

2003年4月2日水曜日

「コンタクトレンズとの上手な付き合い方」について

ゲスト/誠心眼科病院 前川 浩 医師

コンタクトレンズ使用者が急増しているそうですね。

 使い捨てコンタクトレンズの登場や量販店が急増し、現在日本のコンタクトレンズ使用者は1300万人を超えるといわれています。それに伴いコンタクトレンズによる目のトラブルも急増しています。その原因は、目の状態に合っていないレンズを無理に装着したり、レンズケアが不適切であったりと、本来なら避けられる要因によるものが多いのです。目は非常に傷つきやすく、コンタクトレンズは医療用具ですから、使用に際しては極力注意を払わなければなりません。トラブルとして多いのは、ドライアイ、角膜炎、角膜びらん、角膜かいようなどです。また、コンタクトレンズによってアレルギー性結膜炎になることも多いのです。さらに、角膜の厚みを一定に保っている角膜内皮細胞は、年齢とともに減少するのですが、コンタクトレンズの使用期間が長いと、減少が早まり、将来的には白く混濁する可能性もあります。内皮細胞を増やす手段は、現在のところ角膜移植しかありません。

トラブルを避ける方法を教えてください。

 目の健康のことだけを考えた場合、コンタクトレンズの使用はお勧めしません。使用するのであれば、専門の知識と確かな技術を持つ眼科医で検査を受け、きちんと目の状態に合ったレンズを処方してもらってください。装用開始から一週間後の診察、3カ月ごとの検診も重要です。また、1番気を付けたいのが正しいケア方法です。レンズを清潔に保つことが、トラブル予防になります。目の状態によって、汚れやすさなどに個人差があります。汚れやすい人やケアがきちんとできない人は1日使い捨てタイプをお勧めします。1日の装用時間は最小限に。外出先から戻ったらすぐ眼鏡に替えるなど、眼鏡との併用を基本にしてください。また、装用開始の低年齢化が進んでいますが、スポーツをやっているなどの事情がない限り、自身でケアも含めた管理ができる年齢までは装用しない方がいいでしょう。目に何らかの異常があった場合は、すぐにかかりつけの眼科を受診してください。

2003年3月26日水曜日

「急性と慢性の痛みの違いと治療方法」について

ゲスト/札幌一条クリニック 後藤 康之 医師

急性と慢性の痛みの違いについて教えてください。

 多くの場合、痛みは体の変化を知らせる一種のサインです。「痛みがあったら病院へ」と体が警告を発していると考えてください。急性の痛みは、痛みの原因を取り除けば治まる場合がほとんどです。椎間板(ついかんばん)ヘルニア、帯状疱疹(ほうしん)、五十肩、坐骨神経痛、三叉(さんさ)神経痛などは、早期に痛みを取り除けば、早々に治癒しますが、放っておくと悪化したり、長引くことがあります。痛みが3カ月以上続く場合は、慢性痛と考えられます。ヒザが痛い、腰が痛い、極端な肩こりなどは、体の痛みによって日常生活に支障を来し、ストレスの原因になります。ストレスを感じることによって、さらに体の痛みが増幅するということも珍しくありません。また、心理面での悩みや、不安感が痛みを誘発している場合も多く、本人さえ痛みの原因に思い当たらず、医療機関で原因不明と診断されることもあります。特に、現代は景気や社会情勢、家族間の問題など、ストレスに感じることが多く、体の痛みを増幅する原因になっています。

痛みの治療方法を教えてください。

 ぺインクリニックは、痛みを取り除く専門の病院です。人間が「痛い」と感じるのは、痛みを受けた部分の刺激が知覚神経によって脳に伝達されるためです。その際に交感神経なども興奮し、血管の収縮、筋肉の緊張などを招き、患部に痛み物質がたまり、さらに痛みを増す結果となります。この悪循環を断ち切るのが「神経ブロック療法」で、麻酔薬を注射することによって神経の働きを一時的に抑えます。痛みを抑えることで血流が良くなり、痛み物質が流れて麻酔が切れても痛みが戻らない治療です。症状や個人によって効果は違うので、1回で治ることも、数回またはそれ以上繰り返し治療することもあります。急性の痛みは治療が比較的簡単ですが、慢性疼(とう)痛に関しては複雑な背景などがあり、ペインクリニックだけでは治療しきれない場合もあります。症状によっては心療内科医などと協力して治療にあたることも必要になります。

2003年3月12日水曜日

「心の健康」について

ゲスト/岡本病院 村木 彰 医師

最近、心の病に悩む人が多いと聞きますが。

 社会の閉塞(へいそく)感や生活に対する不安が大きい時代ですから、気分が滅入る、意欲が低下している、食欲が無い、不眠傾向にあるなどの症状で、うつ病ではないかと悩む方が多く来院されます。一般的に多いのは、反応性の抑うつ状態で、これは置かれている状況に対する反応で、うつ病とは異なります。うつ病は、「脳の中の元気のもと」が枯れてしまったような状態です。うつ病の場合は十分な休息をとり、抗うつ剤を投与することによって、症状が改善することが多く、比較的治療しやすいといえます。むしろ、環境によって左右される抑うつ状態の方が、治療が難しいのです。仕事や金銭のストレス、家庭内の問題など、根本的な原因について、医師の力だけでは解決することができず、カウンセリングを主体に補助的に投薬を行うなどして対応します。抑うつ状態からうつ病に移行することもあり、両者の見極めは難しいので、まず専門医に相談し、適切な治療を受けることをお勧めします。

心の健康を保つためには、どのような点に注意したらいいですか。

 うつ病、抑うつ状態は、手を抜いたり、気分転換ができないまじめな人に多く見られる傾向があります。日常生活や仕事だけが人生のすべてということになると、それらが順調にいかなくなった場合、精神的に追いつめられてしまいます。熱中できる趣味を持つことで、日常生活のしがらみからの逃げ場を作るのも一つの方策です。どんな趣味でも構いません。手っ取り早く熱中できるものの一つに、スポーツ観戦があります。ひいきのチームや選手を応援し、ファン同士で語らうことによって、ストレスを発散できます。私は一番に地元のプロフットボールチーム「コンサドーレ札幌」の試合観戦をお勧めします。昨年のように負け続けると、かえって精神衛生に良くないですが、今年は大丈夫でしょう。また、すでにうつ病になってしまった場合には、適切な薬物治療と休養が大切です。周囲の人も病気を理解し、「がんばりなさい」などと激励することは、控えた方が適切です。エネルギーが十分になれば、症状は改善されます。

2003年3月5日水曜日

「小児の嘔吐(おうと)・下痢を伴う胃腸炎」について

ゲスト/札幌東豊病院 秋原 実 医師

この季節の子どもの病気について教えてください。

 今の季節、乳幼児に多いのは、ロタウイルスなどの感染による嘔吐・下痢を伴うウイルス性胃腸炎です。下痢や嘔吐の症状があると、お母さんは慌ててしまいますが、子どもには多い感染症なので、落ち着いて様子を見てください。多くの場合、嘔吐の症状を伴います。いきなり吐くと、お母さんは焦って水分を取らせようとしたり、何か食べさせようとすることが多いのですが、ここで肝心なのは、嘔吐の後、最低1時間程度は何も口に入れないことです。胃に物が入ると、また嘔吐を繰り返すことになります。現代の日本の子どもで「栄養不良」を心配する必要はありませんので、ゆっくり回復を待ちましょう。吐き気が落ち着いて大丈夫なようなら、少量の水分を与えます。この場合、糖分のあるものは逆効果なので、水やお茶、スポーツ飲料で十分です。そして様子を見ながら消化の良い食べ物を与えます。この場合も「栄養」にこだわることはありません。タンパク質や脂肪は避けて、重湯、おかゆ、うどんなど胃腸に負担のかからないものを与えます。絶食の時間は個人差がありますが、機嫌が良いようなら心配はいりません。ただ、ぐったりとしているようなら、脱水の心配がありますから、早めに受診してください。子どもの嘔吐や下痢を薬で抑えたり、点滴を安易にすることはお勧めしません。見た目の症状だけ解消しても、本質的な回復ではないからです。しかし重症例で、経口摂取が困難な場合は、点滴が不可欠な場合もあります。

ウイルス性胃腸炎と間違えやすい病気はありますか。

 嘔吐や下痢を伴う病気で、見逃してならないのは腸重積です。腸管がその先の腸管の中に入り込み、腸が二重になった状態になる病気で、生後4カ月ころから2、3歳までの乳幼児に多く発症します。元気だった子どもが突然おなかを痛がって泣きわめく、ぐったりする、顔面蒼白(そうはく)になる、嘔吐するといった症状が現れます。いったん治まっても、また繰り返すことがあります。さらに血便が出るようなら、ただちに受診してください。腸重積になってあまり時間がたっていなければ、肛(こう)門から造影剤や空気で圧を加えることによって、腸が入り込んで閉塞(へいそく)している部分を正常な状態に戻します。発症後時間がたって、圧を加えるだけでは治らない場合は、外科手術による整復が必要になります。頻度は少ないですが、もっとも恐ろしい疾患といえます。

2003年2月26日水曜日

「顔のシワ」について

ゲスト/緑の森皮フ科クリニック 森 尚隆 医師

顔のシワについて教えてください。

 大きく分けて2種類あります。一つは乾燥によって肌の柔軟性が失われ、折り目が元に戻る力が弱くなることでできる細かいシワ、もう一つは筋肉の動きによってできる表情ジワです。紫外線も悪影響をおよぼします。なかでも波長の長いUVAは真皮まで達し、肌に張りを与える弾力繊維のコラーゲンやエラスチンを変性させます。コラーゲンの機能が低下する25歳以降は、特に日ごろの手入れが重要です。細かいシワの予防には保湿が第一です。日中、乾燥していると思ったら、軽いメイクの上からであればミスト状の化粧水やジェルを塗布するのも効果的です。多種類の保湿液の常用は、肌そのものが持っている機能が低下する原因となるので、化粧水やジェルなどを中心としたシンプルな保湿をお勧めします。表情ジワの代表はみけんや額のシワで、視力の弱い方や眼瞼下垂の方が、物を凝視する表情を繰り返すことでできる場合が多いです。どちらのシワも、日常生活の心掛けである程度の予防が可能です。大切なのは、皮脂や汚れをしっかり落とす洗顔です。ゴシゴシ洗わず、低刺激性の洗顔料を十分に泡立て、包み込むように洗ってください。睡眠不足やストレスは良くありませんし、食事ではビタミンA、C、ベータカロチンの摂取を心掛けましょう。

出来てしまったシワの対処法はありますか。

 シワの深さや種類によってさまざまな方法があり、効果の継続期間や回数も異なります。複数の併用により、高い効果が得られる場合もあります。細かいシワはレチノイン酸(ビタミンA)や、コラーゲンの誘導体となるビタミンCが入ったクリームなどの塗布が有効です。また、元来皮膚など人体に存在しているヒアルロン酸を注入する方法では、潤いのある肌が期待できます。幅広い波長を持つフラッシュ光の照射で肌の老化を改善するフォトフェイシャルIPLも有効で、コラーゲンやエラスチンを増やす効果もあります。そのほか、角質の一部を除去し、肌の持っている修復力を活用するケミカルピーリングなどもあります。いずれも専門医とよく相談して行ってください。

2003年2月19日水曜日

「形成外科的傷の治療法」について

ゲスト/土田病院 日下貴文 医師

形成外科的な傷の治療について教えてください

 形成外科という分野についてですが、一般に整形外科と混同される人が多いようです。形成外科は、先天異常、外傷、腫瘍(しゅよう)による醜状を元の状態に戻すための治療を行います。通常の人に新たな外科侵襲を加えて、より美しくする場合は美容外科といい、これも形成外科分野に含まれます。形成外科医の数は、実はかなり少ないこともあり、救急病院で形成外科医が当直していることは極めてまれです。しかし、外傷を負って応急の処置を受けた後、形成外科を受診するのとしないのとでは、傷痕に大きな違いが出る可能性があります。形成外科医が縫合する場合、表面よりも深部の真皮縫合を重視します。皮膚表面はスーチャーマーク(縫合跡)が極力付かないようにごく細い糸で縫合し、抜糸は7日以内に行います。傷の表面は約1週間でふさがりますが、実際の傷の活動は最低でも3カ月間は持続します。つまり、少なくとも3カ月間は傷の幅が太くなったり、赤く盛り上がったりする可能性があります。このため、抜糸後に創の緊張による傷跡の広がりを防いだり、日焼けによる色素沈着を予防するためにテーピングを3カ月間続けます。

やけどについてはどうでしょうか。

 熱傷は、範囲が広いと生命にかかわることは知られていますが、小さなやけどでも早期治療が不適切だと、熱傷深度が進行することがしばしばあります。熱傷は皮膚組織損傷の深度によって1度、浅達性2度、深達性2度、3度熱傷に分類されます。浅達性2度熱傷までは自然治癒できれいに治ります。しかし、深達性2度、3度熱傷の場合は外科的切除と植皮が必要になりますので、早いうちに専門医を受診しましょう。外傷や熱傷で感染が生じると創傷治癒が遅れ、肥厚性瘢痕(はんこん)やケロイドが発生することがあります。この場合、内服薬や軟膏(なんこう)、ステロイド局所注射、テープ固定、放射線治療、手術などを組み合わせて治療します。しかし、肥厚性瘢痕やケロイドの改善は人によって難しい場合もあるので、早期に適切な治療を受けることをお勧めします。

2003年2月12日水曜日

「膀胱(ぼうこう)ガン」について

ゲスト/芸術の森泌尿器科 斉藤 誠一 医師

膀胱ガンについて教えてください。

 膀胱の中にできる腫瘍(しゅよう)の約9割はガンです。膀胱、前立腺、腎臓といった泌尿器系の臓器はガンになりやすく、日本人のかかるガンの10位までに3臓器とも入っています。原因は喫煙によるものがほとんどで、男性に多い病気です。現在、全体の喫煙人口は減少してしていますが、一方で若い女性の喫煙率は高くなっていますので、将来日本における女性の膀胱ガンは増加するものと懸念されています。また、ゴムや皮革の製造加工業、機械工、金属加工業、美容師など、化学薬品や染料を扱う職業にも発症率が高いことが知られています。症状としては、痛みがほとんど無く、血尿が出るだけです。また、膀胱炎でもないのに、頻尿になることもあります。とにかく、タバコを吸う人が何も症状が無いのに血尿が出たり、検診で血尿といわれたら要注意です。

治療と再発の可能性について教えてください。

 治療は、小さなものならカメラによる簡単な切除を行います。再発を少なくするためには、組織診断を注意深く行い、ひとかたまりとして切除することが理想的です。しかし、カメラで完全に切除しても50%の確率で再発しますので、それを防ぐために膀胱の中に抗ガン剤の注入を行います。一般的な抗ガン剤を入れても40%程度は再発しますが、弱毒結核菌であるBCGを注入した場合、再発率を15%程度まで下げることができ、非常に有効といえます。副作用も強いのですが、現在使用されている薬の中ではもっとも有効です。カメラで取りきれない状態であれば、膀胱の全摘出を行いますが、この場合、尿の出口を作る尿路変更が必要になります。尿道に再発の心配がなければ温存でき、腸を用いた新膀胱を作製し、今までと同様に自然排尿が可能となります。しかし、再発の危険性を避けるため尿道も摘除した場合、人工肛門と同じような集尿袋が必要になります。再発を防ぐためには、たばこをやめ、乳酸菌を多めに取ることが有効ですが、一番大切なのは、きちんと検査を受けて、できるだけ早期に発見し、治療することです。

2003年2月5日水曜日

「PET(ペット)によるガン診断」について

ゲスト/札幌新世紀病院  阿部 信彦 理事長

PETについて教えてください。

 PETは陽電子放射断層撮影によるガン診断の一つです。ガン細胞は正常な細胞に比べ、ブドウ糖を3~8倍多く取り込む性質があります。これを利用し、ブドウ糖の薬(FDG)を静脈に注射し、ガン細胞に集まったFDGから放出されるガンマ線をPETカメラで撮影し、ガンのある個所を特定します。生体内変化を画像化して診断するPET検査は、病気の形だけを頼りに診てきた従来の診断(CT・MR)に比べ、診断能力が大幅にアップされ、どこにガンがあるか、どこに転移しているか、病巣の広がりはどの程度かまで評価することが可能です。さらに、今までの診断法では困難だった良・悪性の判別から数ミリのガンの発見・転移まで、ほぼ全身にわたって約20分で検査を終了でき、「ガン診断の切り札」といわれています。ガンと闘う上で最も重要なのは早期発見・早期治療です。ミリ単位のごく小さな段階でガンを見つけて治療に取りかかれば、治療成績は格段にアップします。

どのような人に向いていますか。

 もちろん、検診の一環として受けることもできますが、この場合は健康保険の適用外となります。日本では、昨年4月から一部条件付きで脳腫瘍(しゅよう)、頭頸(けい)部ガン、肺ガン、乳ガン、すい臓ガン、大腸ガン、転移性肝ガン、原発不明ガン、悪性リンパ腫などにおけるPET診断が、健康保険の適用となりました。すでにガンと診断された人、ガンの疑いがあると言われた人、ガンの再発に不安を抱いている人、またガン治療の効果を判定したい人にもお勧めします。ガン治療の先進国・アメリカでは、ガン診断・治療の医療訴訟において、PETの有用性を医師が患者に説明していない場合は、医師が不利になるほど、PETは浸透しています。ただし、PETによる診断が難しいガンもあります。厚生労働省の発表では、2001年のガンによる死亡数は、日本全体の死亡数の約3分の1を占める30万人に達しました。PETのある施設はまだ限られていますので、PETに関心のある人は、まず主治医に相談することをお勧めします。

2003年1月29日水曜日

「子宮筋腫(きんしゅ)合併妊娠」について

ゲスト/はしもとクリニック 橋本昌樹 医師

子宮筋腫と妊娠について教えてください。

 子宮筋腫は性成熟期の女性にとって、もっともポピュラーな良性腫瘍(しゅよう)で、30歳以上の女性の20%以上が罹患(りかん)しているといわれています。近年は女性の高齢出産の増加と、子宮筋腫発生の若年化により、子宮筋腫が妊娠に合併する症例が多く見られるようになりました。子宮筋腫と妊娠が合併することによって、妊娠中には切迫流産・早産、前期破水、分娩(ぶんべん)時には産道通過傷害、微弱陣痛、産褥(さんじょく)期には子宮復古不全などの異常が生じる可能性があります。最近はエコー(超音波断層法)の普及により、妊娠検診などの際に、比較的小さな筋腫でも発見されるようになりました。発見された場合は、切除することもありますが、特に症状が出ていないなら、そのまま経過観察をするのが一般的です。

妊娠・分娩の注意点について教えてください。

 妊娠初期には、硬く大きかった筋腫も、後期には軟らかく扁平(へんぺい)となり、周囲との境界が不鮮明になり、経膣(ちつ)分娩が可能になります。また子宮が大きく伸びることによって、総体的に筋腫の位置が変化し、分娩傷害を起こさずに済む場合もあります。しかし、筋腫によって妊娠の継続が危うくなる、胎児発育障害が予測される、筋腫が原因で流・早産した経験がある、子宮収縮抑制剤などを使用しても筋腫による痛み、圧迫症状が取れない場合は、妊娠中に筋腫を取り除く手術が必要になります。分娩方法については、特に症状が無く経過した場合は経膣分娩が原則です。児頭より下方にあるダクラス窩(か)に落ち込んだ筋腫などでは産道の通過傷害が起きるため、帝王切開が必要になります。また、子宮筋腫を取り除く手術を行った後に経膣分娩を試みる場合は、子宮破裂、微弱陣痛、出血などに注意し、厳重な管理が必要になります。筋腫があった場所、個数、子宮内膜の損傷など考慮し、経膣分娩か帝王切開か判断します。このように筋腫の部位、大きさによって管理・分娩方法が変わるので、妊娠初期から定期的な検診を受け、十分な管理を受けることが大切です。

2003年1月22日水曜日

「オルソケラトロジー」について

ゲスト/青木眼科 大橋 勉 医師

オルソケラトロジーについて教えてください。

 近視や軽い乱視を矯正する治療方法で、従来のやり方とは全く異なります。特殊な高酸素透過性コンタクトレンズを就寝中に着用し、角膜を矯正する、いわば角膜を癖付けする治療方法です。起床後にレンズを外しても、角膜に癖が付いていて、近視や乱視が軽減した状態を保つことができるのです。この治療の最も大きな特徴は、コンタクトレンズの使用を中止すれば、1~2日で角膜が元の状態に戻ることにあります。この可逆性が、角膜を削るレーザー手術などと根本的に違う点です。ただ角膜に癖付けするため、うまく癖付けができないと明るい光を見た時、光が散乱して見えたり、視力低下を感じることがあります。

治療の条件やリスクはありますか。

 オルソケラトロジーは、アメリカの国立眼科研究機関によって研究・施術された治療法で、約30年間にアメリカを中心に、中国、台湾、韓国などでも急速に普及しています。日本で施術され始めたのは、ごく最近です。レンズの性能が飛躍的に向上し、目への負担が軽減されるようになったからです。この治療法が広まった理由の一つとして、レーザー手術のように角膜を傷つけることが無く、近視と軽度の乱視を矯正することができる点が挙げられます。レーザー手術によって角膜を削る治療方法に不安のある人、レーザー治療を受けられる年齢に達していない人、激しいスポーツをする人、日中メガネやコンタクトなどの煩わしさから解放されたい人、裸眼で視力が必要な職業の人などにとっては、比較的適した治療法といえるでしょう。また、近視が進行中の子どもさんには近視を矯正し、進行を抑える効果があるといわれています。しかし強度の近視の場合は効果が得られないケースもありますし、長期にわたる目に対する影響は分かっていないのが現状です。また、健康保険の適用外の治療になりますから、オルソケラトロジーに関心のある人は、専門医によく相談してください。医師の指示に従っていれば、まず危険はありませんが、眼科医の間でも賛否のある治療法なので、自信が納得できるまで検討し、信頼できる医師の元で施術することをお勧めします。

2003年1月8日水曜日

「歯列の成長」について

ゲスト/北大前矯正歯科クリニック 工藤 章修 歯科医師

年齢による歯列の注意点について教えてください。

 歯科的な発育年齢は、乳歯列期、混合歯列期、永久歯列期の3期に分類されます。乳歯が生え揃う2歳半から6歳半ころまでの乳歯列期に、矯正治療が必要になることはほとんどありません。ただ、犬歯のズレによる噛(か)み癖、犬歯が伸び過ぎるなどの原因で、反対咬合(こうごう)や、顎(あご)が横にずれて噛んでしまうことがあります。また、乳歯のうちに虫歯が出来て抜歯した場合、後から生える永久歯が、本来の位置とずれて生える可能性もあります。乳歯から永久歯に生え替わる7歳から14、15歳ころまでを、混合歯列期といいます。8歳ころまでの前半は、永久歯が横や上など、異常な位置から生えてくることがあります。下の前歯が重なり合うことも多いと思いますが、大抵の場合は時間とともに本来生えるべき位置に落ち着きます。ただ、前歯の咬(か)み合わせが反対だったり、上下の顎が左右にずれているなどの場合は、専門医に相談してください。

一般的に矯正治療を始めたらよい時期はいつですか。

 歯列矯正に最も適した年代は、混合歯列期、すなわち7歳から14、15歳ころです。歯が生え揃い、顎の大きさと歯の大きさのバランス、歯並びの異常が顕著になります。上顎(がく)前突症(出っ歯)の場合では、上顎の発育を抑制し、下顎の発育を促す矯正治療をします。また、受け口の場合は下顎の成長を抑えることもできます。八重歯や歯並びがガタガタの場合も、この時期なら極力抜歯をせずに矯正できます。混合歯列期は、顎と歯のバランスを整えるのに一生で最も適しているのです。この時期に良い専門医に巡り会うことは、とても重要なことです。以後の永久歯列期に入ってからも治療は可能ですが、年齢が高くなるにつれて顎の発育を利用する治療は難しくなり、抜歯や外科手術を併用することが多くなります。咬み合わせを悪いままにしておくと、歯周病や顎(がく)関節症の原因になることもあります。歯並びに不安があるときは年齢にかかわらず、一度矯正専門医を訪ねることをお勧めします。

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